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『県庁おもてなし課』 - 行政と観光特使のコラボレーション

「地域の活性化を扱った作品」の第四弾は、有川浩県庁おもてなし課』(角川書店、2011年)です。観光立県をめざす高知県を舞台に展開される新設された「おもてなし課」の職員たちと、観光特使に任命された地元出身の若手作家の奮闘ぶりを描いた作品。2013年に制作された三宅喜重監督の映画『県庁おもてなし課』の原作。錦戸亮さんや堀北真希さんが出演されました。

 

[おもしろさ] 行政に住みつく事なかれ主義、前例主義、手続き論

地域の活性化を語るとき、民間レベルの動きだけではなく、多くの場合、行政とのコラボが必要になってきます。ところが、実際には、行政レベルで幅を利かしている雰囲気は、依然として、変化を嫌うというもの。事なかれ主義、前例主義、手続き論、動脈硬化のオンパレードなのです。「特に地方は保守的だ。現状を維持できたらいいって感覚のままじわじわジリ貧になっていることに気がつかない。気がついたら財政破綻してるって寸法だ。破綻が見えてから慌てたって手遅れだ。その時はもうどうにもならない」。そのように言われたとき、かりに頭では理解できても、実際に現状打破をめざして創造性・柔軟性が発揮されるケースは少ないと言わざるを得ません。本書のユニークさは、そうした変化に柔軟に対応できない「行政の性」をどのように克服していくのかを提示している点です。

 

[あらすじ] 高知には、海・山・川・空とあらゆる種類のイナカが

高知県観光部に突如新設された「おもてなし課」。若手職員の掛水史貴は、振興企画の一環として、地元出身の人気作家に観光特使の就任を打診します。お役所と民間の発想の狭間で揺れる掛水の心の動きが描かれていきます。高知には、海・山・川・空とあらゆる種類の「イナカ」があるわけですが、求められるのは、それらを自覚してプロデュースしていくことでした。

 

県庁おもてなし課 (角川文庫)

県庁おもてなし課 (角川文庫)