「出版社を扱った作品」の第四弾は、里見蘭『ミリオンセラーガール』(中公文庫、2015年)。この本のヨコ軸で描かれるのは、出版界という巨大な制度・慣行・システムの全体像と、それを変革していくことの重要性。本の販売制度、書店営業のイロハをはじめ、書店での本の売り方や陳列の工夫、出版社・取次・書店の関係などを学んでいけるのです。他方、タテ軸として設定されているのは、主人公である正岡沙智の成長物語。なにも知らなくても、常識と意欲と目標と本への愛情さえあれば、ひとはみな、ちゃんと仕事のモチベーションを高めることができるのです。
[おもしろさ] ウラの世界も知って、オモテの魅力をさらに満喫
活字離れが進行していると言われながらも、依然として読書は多くの人たちを楽しませてくれる娯楽の王様のひとつ。どの本がおもしろいのか、どの本が売れているのかといったことは、世間でもよく話題になります。ところが、「本の世界」を作り上げている業界、人々の苦労や工夫などは、一般の人にとってはあまり知られていません。この本は、そうした一般の読者が知らない本のいわばウラの世界を描き出しています。この本を読めばまた、新たな目線で本の魅力を発見するのではないでしょうか! もうひとつの魅力は、本の売り方が学べる点です。いくらいい本でも、それだけじゃ売れないのが現実。しかし、本が売れない時代でも、やり方次第では、大いに売ることができるのです。では、どういった条件がそろったときに、ベストセラーが実現できるのでしょうか?
[あらすじ] 組織は「冒険なし、迫力なし」の優等生社員ばかり
専門学校を卒業して2年目の正岡沙智。アパレルショップの店長を務めていたのですが、職を失ったことで、ファッション誌の編集者をめざして紙永出版を志望し、採用されます。ところが、配属されたのは、書店営業を行う販売促進部。同じ販促(ハンソク)の営業部員でも、人によってやり方はさまざま。しかし、一番大事なことは、やっぱり書店員との信頼関係。最初のうちは、臨店しても、「なにしに来たの?」「帰ってもらえる?」と、まともに相手にされません。戸惑う沙智。書店営業の本質は、戦争よ。領土争いという名のね。「本屋の棚という限られた空間を奪い合うために日々戦ってるのよ。あんたの仕事は、敵の出版社から少しでも多くの棚をぶんどってくる」こと。発破をかけられる沙智。「みんないい大学出てるし、優秀だし、しっかりしてる。でも迫力ないんだよね。冒険しないから、失敗するのがこわいんだろうけど、安全な場所に留まってるだけじゃ進歩がないって」。そうこうしている間に、瓜生旬という無名作家の小説を「ミリオンセラーにせよ」という特命が下されます。そのおもしろさにひかれた沙智は、営業、編集、取次、書店などを巻き込んだ販売作戦をスタートさせることに。