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『会計探偵クラブ』 - 確定申告書から見える税金の世界

2月16日。令和4年分所得税等の確定申告の相談および申告書の受付が始まります。多くの人にとって、税金という言葉が最も身近に感じられる時期です。税は、社会に不可欠な公共財の財源。勤労や教育とともに、納税は、国民の三大義務のひとつとされています。しかし、税を「取られ損」と感じてしまう人は、案外多いようです。それゆえ、さまざまな対策を講じ、納税額をできる限り少なくしようとするわけですね。が、なかには納税をまぬがれようと、違法な行為に走る輩もいるようです。今回は、税金を素材にした二つの作品を取り上げます。なお、このブログでは2020年3月に、「税金」をテーマにして「納めさせる側」(国税局・税務署)と「納める側」との考え方・思惑などを描いた三つの作品を紹介しております。関心のある方は、合わせてご覧ください。

「税金を扱った作品」の第一弾は、山田真哉『会計探偵クラブ 大人も知らない税金事件簿』(東洋経済新報社、2010年)。「小説仕立ての8つの話」と12の「なるほど! 税金講座」を通して、税金の基礎とシステムが理解できるように工夫されています。登場人物たちとともに、物語のなかに身をおいて税金のあれこれを学んでいきましょう! 

 

[おもしろさ] 「知らない者は損をします」

「税金のシステムは知っている者だけが得をして、知らない者は損をします。税金というのは、そもそも『知らないうちに、知らない額を、知らず知らずに取られる』というシステムです。逆に言うと、国は効率よく確実にお金を徴収する見事なシステムを構築していることになります」。本書の魅力は、主に確定申告書の分析を通じ、そのシステムの根幹を知り、各人が抱える問題の真相に近づいていくプロセスにあります。

 

[あらすじ] アンリとキロリとモエミ

舞台は、私立芙藍学園。その高校では、「各部活が独立採算制」をとっています。各部が学校側に「確定申告書」を提出し、「疑似的な税金を学校に支払う仕組み」になっているのです。「実社会で役立つ知識の習得を重視している」からです。事の発端は、「ヨット部が昨年事件を起こし廃部になった」こと。ヨット部に入りたかった白百合杏莉(通称キロリ)は、廃部の理由を聞くため職員室に乗り込みます。そんな彼女に、簿記部の顧問・藤原萌実が告げたのは「ヨット部を潰したのは、私なのよ」という謎の言葉。そして、真相解明のカギは、ヨット部の「確定申告書」の分析にあるというヒントを与えます。キロリは、簿記部のホープ・白百合安利(通称アンリ。元全国簿記コンクールの中学生チャンピオン)の助けを得て、廃部の原因を知ることになります。さらに、萌実の提案で、アンリとキロリをメンバーとした「会計探偵クラブ」が創設。作成されたホームページには、「白百合アンリ様に解決できないことなど、この世にはない!」というキャッチフレーズが……。こうして、外部から持ち込まれた相談事に、それぞれの確定申告書を通してアドバイスを行うという会計探偵クラブの活動がスタートするのです。