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『アキラとあきら』 - ふたりの「出会い」から「共闘」へ

「銀行を扱った作品」の第四弾は、池井戸潤『アキラとあきら』(徳間文庫、2017年)です。零細工場経営者の息子である山崎瑛(あきら)と大手海運会社・東海郵船経営者の御曹司である階堂彬(あきら)。生まれも育ちもまったく異なるふたり。お互いに運命を背負いながらも、同じ産業中央銀行に就職。ともに鍛え上げられ、有能な銀行マンとして成長。そして、危機に陥った東海郵船を救済するため、「二人の共闘」が始まります。2017年7月にWOWOWで放映された連続ドラマ『アキラとあきら』(向井理さんと斎藤工さんのW主演)および2022年に公開された映画『アキラとあきら』(監督:三木孝浩さん、W主演:竹内涼真さん、横浜流星さん)の原作本。

 

[おもしろさ] 「社長=彬」と「銀行マン=瑛」の見事な連携プレイ

盤石であるはずの大企業も、トップの資質・力量いかんでは、簡単に崩壊の危機に陥ってしまいます。いったん歯車が狂ってしまうと、元に戻すのは至難の業。そんなとき、心底頼りになるのは、やはり銀行の「資金と知恵」にほかなりません。本書の最大の読みどころは、東海郵船を危機から脱出させるための「有能な社長=彬」と「有能な銀行マン=瑛」の見事な連携プレイの叙述にあります。

 

[あらすじ] 瑛と彬の成長譚

「お前が大きくなったら、父さんの工場を継いでくれよ」。「うん、まかせとけ!」。伊豆は河津にある零細工場の経営者・山崎孝造と息子・山崎瑛のやりとりです。ところが、数千万円の借金を背負ったことで、工場は倒産。母方の祖父の家に夜逃げ同然に転がり込みます。が、その後、東京大学で学んだ瑛は、産業中央銀行に入行します。他方、階堂彬の父親は、東海郵船の社長・階堂一磨でした。同社は、階堂晋が経営する東海商会(彬の祖父・雅恒の二番目の弟)、階堂崇(雅恒の末弟)の経営する東海観光の三社でグループを形成していたのですが、祖父・雅恒の死に伴う相続がきっかけに、互いにぎくしゃくするように。加えて、東海商会と東海観光については、経営状況が悪化……。淋の方も、同じく東京大学を経て、産業中央銀行に入ります。瑛と淋。ふたりの能力は、入行直後の新人研修でのプレゼンのなかで余すところなく発揮され、一目置かれるように。やがて、バブル経済が生じると、東海商会による伊豆の高級リゾート施設への融資の案件が産業中央銀行に出されました。無謀という判断で同行から融資を断られると、東海商会は、三友銀行から借金をすることになります。のちに、この融資が東海郵船グループにとって危機の元凶となっていくのです。彬の父・一磨の死去に伴い、番頭格の小西が後任の社長に。ところが二年後、クーデタによって放逐。新たに東海郵船の社長となった階堂龍馬(淋の弟)は、グループの絆を強めるため、リゾート施設の拡充に50億円もの資金を投下。しかし、打つ手はことごとく失敗。同社もまた、危機的な状況に陥っていきます。病に伏した龍馬に代わり、新社長に就任したのは淋でした。東海郵船を救うために、「東海郵船社長・淋」と「産業中央銀行の瑛」の協力が本格化。とりわけ、瑛が見事な改革案を稟議の形にまとめたことが、東海郵船再生の決め手となっていきます。