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『銀行ガール』 - 地方の人たちに貢献するのが地銀のミッション! 

「銀行を扱った作品」の第五弾は、須崎正太郎『銀行ガール 人口六千人の田舎町で、毎日営業やってます』(一迅社、メゾン文庫、2019年)です。地方銀行である神山銀行の光瀬町支店で営業として働いている五十嵐吟子24歳の日々が描写されています。義理人情と正義感に溢れる吟子は、客から寄せられる相談の数々に振り回されながらも、ともかく一生懸命! 地銀の存在感を高める貴重なスタッフになっていきます。

 

[おもしろさ] 旧態依然ではあるが、頼りがいのある存在感も

「銀行がこんなに旧態依然とした組織だとは思わなかったよ。仕事だってアナログもいいところよ。ネットとかメールとかろくに使わなくってさあ、いまどきファックスでひたすらやりとりするし、ひたすら紙の書類至上主義だし」「銀行員の男なんて。もうとにかく体育会系で、いばりたがりで、酒の飲み方が汚くて」……。神山銀行にネガティブな表現を並べましたが、本書のユニークさは、そうした状況を批判することではありません。ローカルな事情を十分に勘案したうえで、多様な顧客の要望に沿う形で、地域経済を向上させていこうとする神山銀行の姿勢と手法がリアルに浮き彫りにされている点にあります。

 

[あらすじ] 難しい案件でも、知恵を働かせて

「可愛いのにねえ」と言われることもあるのですが、「よくも悪くもサバサバしすぎた性格と行動」のせいで、24歳になったいまも、吟子は男性と交際したことがありません。いまでも「都会に出たい。モデルになりたい」という思いを捨ててはいないものの、地元を離れることができず、「毎日をうだうだ過ごしています」。勤務先は、貯蓄量30億円ほどの神山銀行光瀬町支店。支店の行員は総勢7名。秋山支店長(なぜか、地方新聞を精読するのが習慣)、次長、支店長代理がふたりと、吟子を含めヒラ行員が3名しかいません。吟子は、原付に乗って、外回りの営業活動を行っています。「売り上げを預かりに参りました」「お金を預けませんか」「お金を借りませんか」「なにかお困りではありませんか」などと聞いて回る日々です。そんな吟子ですが、秋山支店長の後押しもあって、「レトロな食堂に修繕費用を用意する」といった、上司から却下されそうな難しい案件でも、知恵を働かせ、なんとか解決する道筋をつくっていくという意欲とパワーも兼ね備えていたのです。その後も、さまざまな難問に挑んでいく吟子の頑張りが心憎いタッチで紹介されていきます。