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『東京難民』 - 転落人生のプロセスと結末

同じことの繰り返しで過ぎていく平穏な毎日。長く続けていると、そのありがたさは見失われてしまいがちに……。そのようなとき、誰しもが経験するかもしれない人生の転落ぶりを描いた小説を読めば、どのような感想を持つでしょうか? 今回は、あることを契機に「転落」することとなった人物を描いた作品を二つ紹介したいと思います。

「転落を扱った作品」の第一弾は、福澤徹三『東京難民』(光文社、2011年)。両親からの仕送りが途絶えたことで、大学を除籍されることとなった時枝修。彼を待ち受けていたのは、まさに底なしの「転落人生」でした。ごく平凡な大学生の転落と苦難の生活が描かれています。2014年2月22日に公開された映画『東京難民』(監督:佐々部清さん、主演:中村蒼さん、出演:大塚千弘さん)の原作。2011年に刊行された単行本の「帯」に記された「転落したらわかる。退屈な日常の有り難さが」という春日武彦さんの言葉が印象的! 

 

[おもしろさ] 「艱難辛苦」経由「強さ」行き

ごく平凡な大学生活を送っていた大学生。彼が経験することになる過酷な生活を通して、社会の「底辺」で生きている人たちの生き様がリアルに描き出されています。本書がユニークなところは、そうした経験をしたおかげで得るところも大きかったと述べられている点にあります。何度も他人にだまされる経験をし、いちばん苦手だと思っていた肉体労働を余儀なくされます。しかし、それらの苦難を克服することで、なんでもできそうな自信がわき、自分自身の力で世の中を渡っていく基礎がつくられていったのです。

 

[あらすじ] ティッシュ配り、治験、ホスト、日雇いのリアル

私立大学の3年生である時枝修。ある日、学費の未払いで大学が除籍になります。借金を作って両親が雲隠れしたからです。なんの不自由もなく暮らしていた修の生活は一変。その後、行き当たりばったりの生活に突入することになります。お金を稼がないと生きていけないので、過酷な仕事をいろいろ経験することに。ポスティング、テレアポティッシュ配り、治験のバイト、ホスト、日雇いの作業員などを体験しながら、艱難辛苦を味わったあと、ついにホームレスになります。