経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『巨大証券の犯罪』 - バブリーな株価上昇はだれかに仕組まれた

「バブルの時代を扱った作品」の第三弾は、水沢溪『巨大証券の犯罪 第二部ウォーターフロント作戦』(健友館、1989年)。バブリーな株価上昇の契機となったのがNTT株の上場であったことは、しばしば指摘される通り。本書は、NDD株(NTT株がモデル)上場までのプロセスで野田証券(野村証券がモデル)によって演出された「シナリオ」があったのではないかという視点で書かれた作品です。公営企業の民営化・民間活用(民活)が話題になり、東京湾横断道路・明石海峡大橋関西国際空港ウォーターフロントの開発といったさまざまな大型建設プロジェクトが構想されていた、1980年代前半からバブルにかけての時期の証券業界をめぐる動向が描かれています。株式投資をする人への心構えも明示されています。

 

[おもしろさ] バブル期における証券会社と証券マン

本書の特色は、当該期における証券業界の動きに肉薄している点にあります。例えば、①「客が証券会社に預けた金や株券を証券金融会社に預け、それを担保に」して、手持ち資金の約三倍ぐらいの売買ができるという信用取引の話、②専門的な知識をまったく持っていない主婦が営業マンの言いなりになって、どんどん深みにはまっていく話、③厳しいノルマが課せられ、毎日推奨株のはめ込みに翻弄されてきたため、実は大手証券の営業マンの大半は株に関する見識を持ち合わせていないという話、④証券会社の収入のうち、多くの部分を占めるのは株式の売買手数料なので、営業マンが株の売買で手数料を稼ぐため、顧客に「過当売買」を実施させるという話など、興味深い指摘が多く含まれています。

 

[あらすじ] NDD株を上昇させるシナリオとは! 

NDD株が上場されても、1985年当時の「相場から言えば、一株せいぜい30~40万程度にしかならない」となると、国庫がうるおいません。そこで、大蔵省と野田証券が相談のうえ、あるシナリオが作られることに。それは、まず原油安・ドル安・低金利という「トリプルメリット」をもろに受ける会社ということで、大東京電力に注目し、その株価を上昇させる。と同時に、東京湾岸銘柄といったウォーターフロント関連の会社の株価を上げていくことによって、全体的な株高の流れを作る…。そのようにして、全体的な雰囲気作りを行ったうえで、上場に持ち込めば、NDD株も当然高値になるというものでした。いわゆる「シナリオ相場」。そのプロセスは、いかなるものだったのでしょうか?