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『天使はここに』 - 生き生きと仕事に取り組むことのすがすがしさ

食生活には、①飲食店などで食べる「外食」、②家で素材から調理したものを食べる「内食」、③調理・加工済みの食品、惣菜、弁当などを家庭・職場・学校・屋外などに持ち帰って食べる「中食」の三種類があります。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言に伴い、外出自粛が求められる現在、大いに注目されているのが、「テイクアウト」「デリバリー」「ケータリング」といった中食の多様な形です。テイクアウトやデリバリーのサービスを行っている飲食店の様子がニュースで取り上げられています。ただ、そうした中食の伸長は、けっして短期的なものだけではありません。なぜならば、市場規模が最大なのはもちろん内食なのですが、近年における長期的なトレンドとして、最も伸びているのがこの中食の領域だからです。しかしながら、2017年の市場規模を比較すると、中食(約10兆円)は、依然として外食(26兆円)の半分以下にとどまっています。家の中での食事を除けば、依然として外食のウエイトの高さが際立っているようですね。そこで、家に居ながらにして、「読書と食」の両方を楽しめるように、①ファミレス、②鮨屋、③ラーメン店を扱った作品を三回に分けて紹介したいと思います。あなたがよく行く飲食店あるいは近くにある飲食店。それらのひとつひとつにも、きっとそれぞれに固有の物語があるのではないでしょうか。

「飲食店を扱った作品」の第一弾は、朝比奈あすか『天使はここに』(朝日新聞出版、2015年)。ファミレスの業務、仕組み、働いている人の本音がよくわかる本であり、懸命に働くことへのモチベーションの源を感じさせてくれる本でもあります。

 

[おもしろさ] インテグリティが高い人って? 

契約社員の松村真由子。一日の労働時間は平均9時間で、12時間になることもあります。周りによく言われます。どうしてそんなに一生懸命働くのか? バイトであれ、契約社員であれ、働いてもそれほど収入が増えるわけではないのに、なぜ? 答えは、彼女が持っている「インテグリティの高さ」にあります。インテグリティを直訳すると、「完全性」といったもの。ビジネスの現場では、「何かに心から貢献する姿勢」「誠実さ」「人間性」といった意味で使われています。アメリカでは、それが高い人間は大いに尊敬されます。彼女は言います。「自分の考えでやり方を変えてみて、それが改善に繋がれば面白い」「トキちゃんとのチームプレイでフロアを回せると、達成感が得られた」「客に感謝されれば心が温まった」。働くことの楽しさとすがすがしさに出会える一冊です! 

 

[あらすじ] 常に全力で、やるべきことを手際良くやっていく

ファミリーレストランのチェーン「エンジェルズ」で働く松村真由子22歳。高校に入学してすぐにアルバイトとして働き始めて以来、7年間勤務しています。朝の7時20分、「おはようございます」と、無人の店内に向かって、大きな声であいさつをしてからの開店準備。決められた時間よりも、十分早く来て仕事を始めます。普段から不機嫌で、スタッフを叱ることに生きがいを感じている店長の十亀。彼のグチに対しても、「翻弄されて仕事をおろそかにすることで、お客様にしわ寄せが行くのを避けなくてはならない」と考え、うまく対応していきます。そして、「この程度でいい」と思い込み、楽に走りがちなスタッフとは対照的に、真由子は、常に全力で、やるべきことを手際良くこなしていくのです。

 

天使はここに

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