「頭取を扱った作品」の第二弾は、橋口収『[小説] 銀行頭取』(経済界、2005年)。地方銀行の頭取に「天下り」した人物が、リーダーシップをとって行内改革に奮闘します。著者は、大蔵省の主計局長、国土事務次官、公正取引委員会委員長を経て、1984年に広島銀行頭取、92年に同銀行会長を歴任し、2005年7月に永眠。「この経歴がなければ、この銀行小説は誕生しなかった!」と説明されているように、自らの経験をベースにして書かれた作品。
[おもしろさ] 胸に秘めたこと!
企業風土の刷新など、「夢のまた夢」ぐらいにしか考えられていなかった1980年代の地方銀行で、行内を変えていこうとする「改革マインド」に満ち溢れた頭取の心の内が見事に描かれています。では、「改革マインド」の中身とは、いかなるものなのでしょうか? 「かりに心の動揺があっても、それを表情に出さない」ように努める。「自分は、精一杯の努力をしたという自覚」を持ち、悔いのない銀行員生活を送ったと、胸を張って言える。「時間を守る。顔を出す。前向きにいく」。「成功するか、敗者となるかは、自らのもって生まれた運勢と器量、そして自分の努力いかんによるもの。他人の力を当てにするのはやめよう」と考える。そうしたことを胸に秘めながら、自らを奮い立てていたのです。いつの時代にも、通用するマインドと言えるかもしれませんね!
[あらすじ] 赴任先の地銀は「旧態依然」
時代は1980年代中葉。中央官庁の幹部から有力地銀三星銀行の新頭取として招き入れられた主人公の山岡孝雄。そこで遭遇したのは、①院政を狙う老獪な権田正征前頭取・現会長、②無気力で責任回避に身を任せる役員たち、③効率や変革とは無縁の旧態依然の銀行組織、④「落日の老大国」という世評に示される停滞ぶりでした。そのような状況下で、山岡の行内改革が始まることに。それは、まさに悪戦苦闘の連続という言葉でしか表現できない現実だったのです。