経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『捌き屋 盟友』 - 表には出ない企業間のトラブルを裏で解決! 

「闇ビジネスを扱った作品」の第四弾は、「捌き屋(さばきや)」と称される企業コンサルタントを素材にした浜田文人『捌き屋 盟友』(幻冬舎文庫、2018年)。表には出ない企業間のやっかいなトラブルを秘密裏に解決する稼業があります。「企業交渉人」とか「示談屋」と呼ばれ、関西では捌き屋(さばきや)とも称される企業コンサルタントのこと。警察が介入するなどで、そうしたトラブルが表面化したら、その時点で、依頼主は捌き屋を切り捨てることになります。「捌き屋は闇の世界」でしか生きることができないのです。そのような彼らの仕事のやり方が克明に描写されています。捌き屋・鶴谷康を主人公にした作品は、シリーズ化されています。

 

[おもしろさ] ターゲットを孤立無援に追い込み、とどめを刺す! 

捌き屋の鶴谷は、ありとあらゆるツールを使い、先入観を持たずに情報を収集し、真実に迫っていきます。藁にもすがる思いで、企業は捌き屋に頼ろうとするのですが、打診の段階で依頼主が企業の機密事項を教えることはありません。すべて自ら集めていくしかないのです。「ここ一番の攻め時まで全方位を見渡せる原っぱに立ち、最後の一手を見つける」という言葉には、鶴谷のすべてが凝縮されています。ターゲットを孤立無援にして、とどめを刺すわけです。本書の魅力は、捌き屋としての仕事の極意が明らかにされている点にあります。

 

[あらすじ] 華やかな「表の世界」とドロドロとした「裏の世界」

華やかな再開発計画という「表の世界」と利権がうごめくドロドロとした「裏の世界」のコントラスト! 捌き屋稼業をしている鶴谷康51歳。そんな彼のもとに、大手不動産会社・東和地所の杉江恭一専務から帝都電鉄の土地をめぐるトラブル処理の依頼が届きます。東京オリンピック開催を前にした再開発事業を進める西新宿の二つの土地。全体の5%でしかありませんが、転売が繰り返され、権利関係が極めて複雑になっています。二箇所で40億円という条件でまとまりかけていましたが、新たな条件提示が行われ、交渉が中断。関西のある大物ヤクザの暗躍があったからです。らちが明かず、鶴谷にお鉢が回ってきたのです。彼は、政治家や警察官僚を巻き込んだ利権と癒着の巣窟を前に、命を狙われるという危険にさらされながらも、懸命に仕事を遂行していきます。