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『フリーター、家を買う』 - 「甘ったれ」のガキが社会人に変身していく

「就職活動に役立つ作品」の第三弾は、有川 浩『フリーター、家を買う』(幻冬舎、2009年)。「フリーターからの脱出」「等身大の若者」「親子関係の断絶と修復」などを扱った本書では、「フリーターの就職活動」が登場します。入社試験の結果は、採用か不採用かのふたつにひとつ。では、なぜ、そうなるのでしょうか? いずれの場合にも理由があるのです。就活生には、是非とも参考にしてほしい作品です。2010年10月期にフジテレビで放映されたドラマ(主演は二宮和也さん)の原作でもあります。

 

[おもしろさ] 「ガキから大人への変身」を楽しもう! 

一番の読みどころは、「ガキから大人への変身」を楽しめること。「ガキ」であるうちは、いくら就職活動をやっても、うまくいきません。主人公の武誠治を登場させましょう。就職活動を行うものの、まったくうまくいかなかったときの彼の状況・心境を紹介してみますと、次のようになります。「仕事なんかいくらでもあると思っていた」「親父の手なんか借りるもんか! ほっとけ」「就職活動に比べると、バイトは気楽で良かった。嫌なことがあればすぐ辞められるし、いくらでも代わりのバイト先は見つかる」「自分の殻に閉じ籠もろうとした」……。不採用になったときの履歴書を数枚見ただけで、「話にならん」と言い放った父親の誠一。が、彼のアドバイスは実に的確だったのです。丁寧さとは無縁の字、使いまわした内容、無難な応募動機、3ケ月で辞めた理由の説明も会社への批判と言い訳に終始……。しかし、そんな彼が変わっていきます。「大人への変身」です。「ガキから大人への変身」というと、なぜか難しそうなイメージがあるかもしれませんね。しかし、この本を読めば、人並みのやる気と常識があれば、そして、たとえ不器用であっても、何事にもちゃんと向き合う気持ちさえあれば、やっていけることがわかることでしょう。

 

[あらすじ] 25歳の誠治が変わるきっかけは? 

誠治は、私立大学を卒業したあと、そこそこの会社に入社します。ところが、自己啓発だか宗教の修行だかよくわからない研修に参加して、すっかりイヤになってしまいます。3ケ月ほどで、辞表を提出。「今の時代、仕事を探すのがどれだけ難しいか分かってるのか!」と激怒する父の誠一。「うるせぇな、分かってんだよそんなことは! 再就職すればいいんだろう!」と誠治。就職活動を行うものの、どこにも決まらず、フリーターになることを余儀なくさせられます。バイトはやるのですが、客への言葉使いをちょっと注意されただけで、かんたんに辞めてしまうのでした。少し辛抱すればいいのに、現実を直視せず、逃げていたわけです。ところが、母の寿美子の精神的な病を契機に、「就職と貯金100万円」という目標を設定し、昼間は就職活動、夜は道路工事のアルバイトを始めます。やがて、「父さんに就職活動のアドバイスとかもらえないかなって」と誠治。「仕方ない奴だな」と誠一。誠治25歳の変身プロセスが作動したのです。

 

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)