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『冷静と情熱のあいだ』 - 忘れられない人が心の中に住み続けている

「絵画を扱った作品」の第三弾は、辻仁成冷静と情熱のあいだBlu』(角川文庫、2001年)。ルネッサンス発祥の地であるイタリアの古都・フィレンツェ。近代的なビルが一切存在せず、まるで街全体が美術館のようです。そんな街を主舞台に、修復士の順正と、あおいの10年にも及ぶ切ない愛の軌跡を男性の視点から描いた「青の物語」。修復することで画家がカンバスに託した生命の息吹をよみがえらせるという修復士の仕事・役割が浮き彫りにされています。江國香織冷静と情熱のあいだRosso』(角川文庫、2001年)は、同じ愛の軌跡を女性の視点から描いた「赤の物語」となっています。2001年に制作された、中江功監督の映画『冷静と情熱のあいだ』の原作本。主演は、竹野内豊さんとケリー・チャンさんでした。

 

[おもしろさ] 名画の命を幾世紀にもわたってつないでいく修復士

この本のひとつのおもしろさは、同じ物語を男性視点の「青の物語」と女性視点の「赤の物語」という二つの目線で描いていることです。その意味では、両方の本を読み比べるのが、この本に「ふさわしい読み方」と言えるでしょう。もうひとつのおもしろさは、なんといっても修復という仕事の大切さを描いている点です。それは、歳月を経ることで、滅びてしまう名画を精魂込めて生き返らせる、さらにはその生命を幾世紀もあとの修復士につないでいくという、名前が残ることがないにせよ、美術作品を過去から未来へと伝承していく仕事なのです。

 

[あらすじ] 10年後にフィレンツフェの大聖堂の上で! 

「あのね、約束してくれる? 」「どんな? 」「私の30歳の誕生日に、フィレンツェのドゥオモ(大聖堂)のね。クーポラの上で待ち合わせをするの、どお?」。それは、10年前の順正とあおいの「たわいもない約束」。順正は、修復士というやりがいのある仕事を持ち、芽実という恋人と一緒に幸せに生きているにもかかわらず、どこか満たされない空洞感を感じ続けています。学生時代のかつての恋人あおいと交わした、その「たわいもない約束」が心から離れないのです。10年後、果たして? 

 

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

 
冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)