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『トッカン 特別国税徴収官』 - 絶大な強権を有したその「実像」! 

2月上旬になると、日ごろ遠い存在と思っている税務署がとても近いものに感じる人が増えるのではないでしょうか? それは、2月17日から確定申告が始まるからです。源泉徴収されている税金がどれくらい還付されるのか。支払った医療費がどれだけ戻るのか。逆に、いったいどの程度追加で税金を払うことになるのか……。税金に対する関心が最も高まる季節の到来です。そこで、今回は、「税金を扱った作品」を三回に分けて紹介します。

「税金を扱った作品」の第一弾は、高殿円トッカン 特別国税徴収官』(早川書房、2010年)。税金を滞納する者から税を取り立てるのが、徴収官。なかでも、特に悪質な事案を担当するのが特別国税徴収官(略してトッカン)です。トッカンの活動・仕事を通して、徴収の最前線がユーモラスなタッチで浮き彫りにされています。2012年7~9月に日本テレビ系列で放映されたドラマ『トッカン』の原作本。井上真央さんや北村有起哉さんらが出演されました。

 

[おもしろさ] 「納める側」と「納めさせる側」双方の苦悩と懸念

国民が税金を納めることで、国の財政基盤は確立され、国民が安心して生活することができる。総論は賛成! でも、自分自身が納める税金はできるだけ少ないほうが良い。多くの人のホンネは、そういったところではないでしょうか? しかし、税務署の方は、法律に基づき可能な限り税収を増やしたいと考えています。その結果、納税者と税務署の間には、常に大きな緊張感が漂うことに。本書の魅力は、「納める側」と「納めさせる側」双方の考え方・苦悩・懸念などを見事に描写している点です。冷徹な上司のもとで、滞納者からの取り立ての仕事に右往左往する新米の主人公・鈴宮深樹の成長が楽しめる「お仕事小説」でもあります。

 

[あらすじ] 新米の徴収官が苦闘する税の取り立て現場

大学時代、公務員試験をめざしていたものの、滑り止めぐらいにしか意識していなかった税務署職員になってしまった主人公の鈴宮深樹25歳。「国税に与えられた権利は、警察をはるかにしのぐ強権だった。基本的に、警察の取り調べに対しては黙秘ができるが、税務署にはできない。マルサで有名な査察は、裁判所で強制調査の令状をとり、納税者の同意なしに調査することができる。そして、あまり知られていないが、その査察の上を行く恐ろしい部門がある。何を隠そう、このわたしが現在所属する『徴収』部門である」。あくまでも悪質な滞納者に対してではあるが、裁判所の令状なしに押しかけていきお金を「強奪」しても、相手はなんの手出しもできません。そんな強権を持つ徴収官になった鈴宮の配属先は、東京国税局京橋地区税務署。そこで待っていたのは、冷血無比なトッカンである鏡雅愛34歳でした。悪人であろうがヤクザであろうが宗教家であろうが、容赦なく金を取り立てていく鏡。鈴宮は、彼の補佐として、「帰れ!」「税金泥棒」「悪魔」などと、罵詈雑言を浴びせられながらも、滞納者からの取り立てに奔走します。例えば、納税を拒む資産家のマダムから、フェラーリ、高級ブランドのセーター、マッサージチェア翡翠の指輪など、金目のあるものに徴収票を張り付けていきます。

 

トッカン―特別国税徴収官― (ハヤカワ文庫JA)

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トッカンvs勤労商工会 (ハヤカワ文庫JA)

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トッカン the3rd おばけなんてないさ (ハヤカワ文庫JA)

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