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『営業の新山さんはマンションが売れずに困っています』 - 新人がお客様第一号を獲得するまでの長い道のり

「不動産会社を扱った作品」の第二弾は、タカナシ『営業の新山さんはマンションが売れずに困っています』(光文社キャラクター文庫、2019年)。マンション販売の最前線の状況、不動産会社の業務内容を楽しみながら知ることができる作品です。マンション販売部に異動になった女性が第一号のお客様と契約を結ぶまでの道のりが描かれています。

 

[おもしろさ] 「何が何でも売るように持っていく」ためには

本書の最大の興味は、ずばり今時のマンションの売り方がわかることです。不動産会社の営業員は、どのようにしてマンションを売っていくのでしょうか? モデルルームではさまざまな工夫と演出(豪華さを演出するエントランスロビー、ウェルカムドリンクのおもてなし、保育スタッフによるキッズスペース、シアタールーム、スイーツ付の見学バスツアー)を行う。外見に騙されず、アンケートに書かれたものからつぶさに売れる客を見抜く。SNSを含めて個人情報を可能な限り調べ上げる。ライバル社のマンションギャラリーから出て来た来場者にチラシを配る。現地案内をするときに、周辺のスーパーや飲食店を掲載した「くいしんぼうマップ」を渡す……。「何が何でも売るように持っていく」という売るためのノウハウが満載です。

 

[あらすじ] 「私だってマンションぐらい売れますよ!」

大手不動産デベロッパー「三隅地所」のマンション開発事業部に勤務する新山里香は28歳の総合職。要点をまとめる力に加え、斬新なアイデア力も兼ね備えています。ただ、言葉遣いが変にかしこまっていたり、ファッションセンスが前衛的だったり、周りの人たちには、「近寄りがたい」存在と思われていました。ある日、想定外の異動でマンション販売営業部へ。彼女の上司である佐野航は、営業成績ナンバーワンのエース。「マンションの王子様」という異名を持っています。「イケメンすぎず、ちょうどいいくらいの顔」「さわやかな笑顔が似合う」「褒め上手」「受け流し上手」の航は30歳の独身。「私だってマンションぐらい売れますよ!」と大口叩いたものの、まったく売れない毎日。おまけに、彼氏さえいたためしがないのに、「不倫をしている!」という怪文書が出回り、四苦八苦することに。しかし、里香は、徐々に販売することへの情熱を燃やしていくようになります。「マンションを売るのは、お客様が幸せになるお手伝い」と信じながら……。