経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『島のエアライン』 - 熊本県が立ち上げた第三セクターの航空会社

「航空会社を扱った作品」の第四弾は、黒木亮『島のエアライン』(毎日新聞出版、2018年)。熊本県の「天草空港」の設立に至るまでの紆余曲折の経緯と、地方自治体が独力で経営する日本初の定期航空会社「天草エアライン」の苦難の道のりを描いた「ドキュメンタリー小説」です。実話に基づき、登場人物はすべて実名で描かれています。飛行機から見える雲仙岳島原湾・島々の風景は、「島のエアライン」にふさわしいものであり、まるで「遊覧飛行」をしているような親近感が! 

 

[おもしろさ] 「無謀、無駄な公共事業の典型」と評された空港

天草という、人口15万人の島に空港を作る。そのために、百億円近い税金が投入される。果たして、どれくらいの人が使うのか。「まさに無謀、無駄な公共事業の典型」。「直ちに中止すべきです!」。そうした厳しい批判を行ったのは久米宏。平成10(1998)年5月18日、彼がメインキャスターを務めるテレビ朝日の『ニュースステーション』の番組の中でした。しかし、この批判は、「こがんなったら、絶対に負けんばい!」と、逆に「肥後もっこす」の意地に火をつけたのです。3年後、テレビ朝日と同系列の熊本朝日放送は、天草エアラインの業務を好意的に取り上げた特集番組を制作しています。「事実は、小説よりも奇なり」という言葉があるように、たとえ小さくても、一つの空港を設置し、路線を開設するのに、建設用地の手当て、運輸省の認可・検査、機種の選定・購入、パイロットや乗務員の確保、操縦士の訓練、航空機の整備、路線の確定など、これほどまでに複雑で、労苦の伴う業務・努力が不可欠なのかということに、読者は驚かされることでしょう。そして、まさに泉のごとく、次から次へと湧き上がってくるトラブルや問題に対する対応ぶりは、まさに神業とも思えるほどにすごいものであったということにも。

 

[あらすじ] 天草空港天草エアラインの壮絶な現代史

細川護煕元知事(在任昭和58年~平成3年)の強力なリーダーシップのもとで検討が始まった天草空港。空港の設置許可申請に踏み切ったのは、本田技研工業の子会社である本田航空が天草を拠点として飛行機を飛ばす意向を示し、西武鉄道グループが天草にゴルフ場やホテルを建設するという計画を持っていたからでした。ところが、バブル崩壊後の不況下で、本田航空の撤退表明がなされ、西武の計画も実現の見込みがうすくなってしまいます。それでも、議会での反対派や一部の地権者などを説得しながらも、建設工事は、バブル崩壊後の1991年にスタートし、どんどん進行していきます。ところが、平成8(1996)年のこと。1年後には完成まで85%近くまで近づくという見通しがあっても、依然として就航する航空会社が見つかりませんでした。そのため、熊本県は、第三セクターの航空会社を独自に立ち上げることを決意。その後も、次から次へとトラブルや問題が発生。そして、平成12(2000)年、天草空港天草エアラインがついに待望の開業日を迎えるのですが……。

 

島のエアライン 上

島のエアライン 上

  • 作者:黒木 亮
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: 単行本
 
島のエアライン 下

島のエアライン 下

  • 作者:黒木 亮
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: 単行本