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『D列車でいこう』 - ローカル鉄道を活性化させる手立てとは? 

コロナ禍に伴う利用数の激減で、業績の低迷に悩まされている鉄道業。しかし、鉄道は国民にとっては欠くことのできない重要なインフラです。いまも、多くの鉄道会社では、駅ナカの充実、駅のリニューアル、駅周辺の再開発、新駅の整備、収益構造の多角化、次世代技術の開発、ラッシュ時の混雑緩和など、将来に向けてさまざまな努力と試みが続けられています。コロナ禍が終息すれば、そうした努力と試みが功を奏して、より強靭な企業体質が作り上げられていくことでしょう。ただ、それだけでは、けっして十分とは言えません。これから先、日本の人口減少がより加速化され、鉄道の利用者も減少していくからです。そこで浮上するのが、日本の鉄道技術の海外への売り込みです。とりわけ、世界の新興国では、高速鉄道を導入するという動きが今後も強化されることが予想されます。新幹線が日本の鉄道技術の粋を結集した優れた鉄道インフラの最高峰であることは確かです。その高い技術を世界に認識してもらい、パッケージ化して海外に輸出することもまた、日本の鉄道産業の将来を切り開く鍵となるのではないでしょうか。そこで、今回は、鉄道業を扱った作品を四回に分けて紹介していきたいと思います。

「鉄道業を扱った作品」の第一弾は、阿川大樹『D列車で行こう』(徳間書店、2007年)。大都市圏の鉄道会社が苦境に陥っている一番大きな原因というのは、前述のように、コロナ禍に伴う利用客の減少にあります。したがって、コロナ危機が克服されれば、経営状況も大きく改善されることは、ある程度予測できるでしょう。一方、もともと人口が少ないうえに、過疎化がさらに進行している地域で運行されているローカル鉄道の場合、深刻度は大都市圏の鉄道会社の比ではありません。では、ローカル鉄道の場合、どのような状況におかれているのか、また活性化するのは、どういった手段が考えられるのか? そうした課題を考えるために紹介するのが、廃線が決まっている広島県のローカル線=山花鉄道を救うために立ち上がった三人の活躍を描いたこの作品です。三人とは、MBA取得の銀行ウーマン・深田由希、彼女と同じ銀行の支店長で、良心的な融資を心掛けてきた河原崎慎平、鉄道マニアのリタイア官僚・田中博。ローカル線を活性化させるためのヒントが満載です。

 

[おもしろさ] 考え方の軸を定め、プランを考え、実行に移す! 

ローカル鉄道を再生するための手段とは、いかなるものなのか? まず、①地域住民でない乗客を呼び込むこと、②利便性を一層向上させること、③客の輸送以外でも金を稼ぐことという三つの視点を設定します。そして、それにそってさまざまな企画を考え出し、実行に移していくのです。具体的な事例としては、①ネットを活用した、鉄道マニアに対する「リアル運転士講座・学科編」の実施、②小学生の金賞受賞作品(絵)の展示、③山花楽器の冠のついた「ヤマハナ・レイルウェイ・バンド・コンテスト」の実施、④バンド・コンテストのポスター公募、⑤ミニログハウスによるログタウンの創造、⑥列車内での野菜の販売、⑦運転士養成講座、⑧山花鉄道を舞台にした開発シミュレーションゲームなどを挙げることができます。そうした具体例がどのように構想され、実施されていったのか? 本書の読みどころです。

 

[あらすじ] 十分な準備と資金と計画が道を切り開く! 

このままだと、再来年の夏には廃線になってしまう山花鉄道の路線は33キロ。20人の社員で、一日に16往復を運行している。赤字は3000万円。黒字に転換させる手立てが見つからない。そんな鉄道を5年以内に黒字化することをめざして、三人が株式会社「ドリームトレイン」を興します。十分に準備を重ね、2億円の資金と再建計画を持って、山花町の町長で、第三セクター山花鉄道社長の瀬谷正三とアポイントを取りつけます。ところが、社長はドタキャンしてしまうのです。

 

D列車でいこう (徳間文庫)

D列車でいこう (徳間文庫)

  • 作者:阿川 大樹
  • 発売日: 2010/07/02
  • メディア: 文庫