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『ゲームセットにはまだ早い』 - 野球のクラブチームの実態! 

「アスリートを扱った作品」の第二弾は、須賀しのぶ『ゲームセットにはまだ早い』(幻冬舎文庫、2017年)です。新潟県で町おこしの一環として創設されたばかりのクラブチーム「三香田ヴィクトリー」が舞台。チームを構成する監督・キャプテン・選手・マネージャーたちの人間紋様とそれぞれの成長物語、野球というスポーツの魅力が余すところなく描かれています。

 

[おもしろさ] チームづくりの大変さとおもしろさ

プロ野球には、日本野球機構NPB)と独立リーグがあり、アマチュア野球には、企業チームとクラブチームがあります。企業の支援が得られる社会人野球とは異なり、有志の集まりでもあるクラブチームでは、そういった支援は期待できません。それゆえ、クラブチームの選手は、それぞれの職場で働きながら練習や試合をしなければならないのです。そうした苦労を抱えながらも、クラブチームの選手たちは、大好きな野球ができることを楽しんでいます。とりわけ優れた力を持った選手は、野球選手としてのキャリアアップを夢見ながら頑張っています。ただ、そうはいっても、個々の選手の実績は、チームの力によっても大きく左右されます。野球はあくまでもチームで行うスポーツだからです。強くなっていくためには、チーム内でのさまざまな役割を的確に演じられるスタッフが不可欠です。本書は、そうしたチームづくりの大変さとおもしろさが描かれています。

 

[あらすじ] それぞれの人間紋様がひとつのチームの中で融合

各章は、それぞれ独自の「主人公」の目線で描かれ、全体として、三香田ヴィクトリーというチームが立体的に浮き彫りにされるという手法が採られています。ちょっとしたきっかけで社会人野球の古豪・佐久間運輸野球部から三香田ヴィクトリーの中核選手に転身する高階圭輔(第一章)。地元のスーパー「あらたマート」に勤務し、入社三年目に窓際と噂される三香田店に異動することになったうえ、嫌々マネージャーへの就任を命令される安東心花(第二章)。大学野球部の「理不尽な上下関係や独特な陰湿さ」でメンタルがズタズタにされたものの、「本気で野球を楽しみたいものだけが欲しい」という監督の言葉に共鳴し、なによりも選手に信頼される捕手をめざしている尾崎哲也(第三章)。三香田ヴィクトリーの元の組織とも言える根元製紙野球部時代からチームを愛してやまず、頼りにされるキャプテンの國友(第四章)、かつて弱小高校を率いて甲子園でベスト4まで進んだ後、マレーシアのナショナルコーチをしていた片桐裕也監督と一緒にチームに合流することになった直海隼人(左の本格派だが、故障と素行の悪さゆえに短期間でプロ野球の世界から消えた)(第五章)。チームが狙うのは、クラブチームにもチャンスが残されている、都市対抗を制したチームに与えられる最強の証「黒獅子旗」。