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『不正会計』 - 金融庁と監査法人のビミョウな関係

監査法人を扱った作品」の第三弾は、杉田望『不正会計』(講談社文庫、2009年)。金融庁による業界再編という指導のもと、中央と青山が合併して設立された中央青山監査法人。その崩壊もまた、金融庁の「意向」と大きく関わっていたようです。同監査法人を連想させられる「あずみおおたか監査法人」の崩壊の真相を、先に紹介した『小説監査法人』とはまた異なった視点から暴き出した作品です。

 

[おもしろさ] 国家権力が監査法人を切り捨てる

「あずみおおたか監査法人を、葬り去る力を持つ、大きな何か……。事件を仕掛けたのが大きな何かであるとすれば、それは国家権力以外にあるまい。しかし、監査法人を潰す目的がわからない。金融庁の別働隊のような監査法人だ。まだ金融庁監査法人は蜜月の時代が続いていたと思っていたのに」。この本の特色は、両者間の微妙な関係を浮き彫りにするなかで、あずみおおたか監査法人が国家によって切り捨てられていく理由を描いている点にあります。

 

[あらすじ] 老舗メーカーの粉飾疑惑から始まった! 

3000社を超える顧客、その顧客が稼ぎ出す金額はGDPの15%にも相当します。そうした実力を誇るのが、「あずみおおたか監査法人」(平成14年に金融庁の業界再編によって創設)です。そこに勤めるマネージャーの青柳良三36歳。恋人の由美子は監査法人金融庁の癒着を取材する社会部の記者。同法人が健全だと判断した老舗メーカー兼高に粉飾疑惑が浮上。すでに再建のために産業再生機構送りにすることも決まっていたのですが、粉飾となると、大問題に。事実、あずみおおたか監査法人にとって、それが「破局への序曲」でした。当初の「粉飾が見抜けなかった」から「粉飾に手を貸した」と言われるように。粉飾幇助は、犯罪に当たります。騙されたと言い続ける監査法人の執行部。危機に陥っていきます。背後に、もっと「大きな何かが動いている」のではという懸念、さらには「会計士業界の国際的な大再編とか、監査法人に巨大な6+権限を与えて、金融庁の別働体にするとか……」といった勘ぐりも浮上するようになります。