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『空飛ぶ広報室』 - 航空自衛隊を広く知ってもらうには

自衛隊を扱った作品」の第四弾は、有川浩空飛ぶ広報室』(幻冬舎、2012年)です。「スカイ」というタックネームを持ち、精鋭集団ブルーインパルスへの配属を夢みる若き戦闘機パイロット空井大祐二尉。ところが、28歳の時に、不慮の事故で戦闘機のパイロットを続けることができなくなった彼は、東京市ヶ谷にある「防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室」に配属されます。「自衛隊を商品として売り込むための広報企画」の作成などの活動にまい進するなかで、次第に広報マンとしての自覚が出てくるようになります。「自衛隊に何の関心もなく、知識もない」という、一般的な日本人に、自衛隊のことを知ってもらうという意図は、十二分に果たされている。そのような出来栄えです。2013年4月から11回にわたって放映されたTBS日曜劇場『空飛ぶ広報室』の原作(主演は新垣結衣さん、出演は綾野剛さん、柴田恭兵さん)。自衛隊で働く人も、ほかの職場で働く人と何ら変わりありません。しかし、「有事に対する覚悟があるという点だけが違います」。巻末に記された有川の言葉が心に響きます。

 

[おもしろさ] 「自衛隊の持っている商品」を広報につなげる

航空幕僚監部広報室」の「使命は、国民の皆さんに自衛隊のことを知っていただき、活動にご理解をいただくことです。そのためにも、自衛隊の装備がきちんと運用されていることをできる限り国民の皆さんにご報告していかねばなりません。適切な要請への取材協力は、我々の使命に適うものです」。では、広報室は、「自衛隊の持っている商品」をどのように広報につなげていくのか? 本書の読みどころは、まさにその点にあると言っても過言ではありません。

 

[あらすじ] 幼いころからの夢を絶たれたふたり

広報班と報道班に分業されている「航空幕僚監部広報室」。広報室長は、「ミーハー室長」の異名を有する鷺坂正司一佐。彼のもと、紅一点だが、口調に「べらんめえ」が入る柚木紀子三佐、柚木に「風紀委員」と呼ばれている槙博巳三佐、気ままで、「人使いの荒い」片山和宜一尉、広報歴12年の「空自広報のエキスパート」である比嘉哲広一曹(空井の指導役)といった個性的な面々をはじめとして、総勢15名が働いています。そこに通勤し始めてから2週間、空井二尉は、基地とはまったく違う風土になかなか慣れません。そして、依然として、広報の企画の立て方がまったくわからないのです。ある日、空井は、「帝都イブニング」の特集のための取材で訪れた帝都テレビの美人ディレクター・稲葉リカと出会います。前任者から、自衛隊の担当を引き継いだ彼女。しかし、露骨な物言いは、スクープをねらってか、非常にガツガツしています。しかも、かなりの自衛隊嫌いのようなのです。嫌な思いをする空井。ところが、鷺坂の方は、まったくへこたれません。そんなリカに言います。航空自衛隊の50周年記念で作られた写真集を示しながら、「ここに載っている物品・人員・ロケーション、要請が適切であればすべてご要望のままに、無償でご提供できます」と。こうして始まった、広報室と稲葉リカとのコラボ! その過程で、彼女は、徐々に自衛隊に対する見方を変えていくことに。空井と稲葉の共通点は、「幼いころからの夢を絶たれ、人生の壁にぶちあたっている」こと(稲葉の場合は、ジャーナリスト」になるのが子どもの頃からの夢だったのです)。それぞれの壁を乗り越えていく、ふたりの様子が描かれていきます。