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『そうだ、星を売ろう』 - 「コトづくり」を軸にしたビジネスモデルの構築

2019年のお盆休み。8月10日(土)から18日(日)までの9連休になる人も多いようです。期間中、ふるさとに帰省する人がたくさんおられることでしょう。大都市から地方に移動すると、真っ先に目にするのは、人の密度が希薄になることです。事実、多くの地方はいま、人口減少や過疎化に苦しんでいます。と同時に、地域の特性を生かした魅力づくりをめざし、そうした課題に向き合おうとする「町おこし」や「村おこし」の動きも各地で活発になっています。そこで、今回は「地域の活性化を扱った作品」を四回に分けて紹介していきます。

「地域の活性化を扱った作品」の第一弾は、永井孝尚『そうだ、星を売ろう』(KADOKAWA、2016年)です。長野県・南信州にある阿智村での実話に基づいて書かれたビジネス物語。衰退する温泉街を地域全体の活性化の一環として位置づけた、驚くべき「地域おこし」が描かれています。

 

[おもしろさ] 「当たり前のもの」を強みに変えるという発想

この本の魅力は、ずばり「モノが売れない時代」に「コトづくり」を軸にした新しいビジネスモデルを構築する手法を提示している点にあります。魅力づくりの原点が、現地の人にはごく「当たり前のもの」である星空を強みに変えるというとてもシンプルな気づきであることにも驚かされることでしょう。かつては、団体客が多く、温泉に入って癒されたり、宴会を楽しんだりと、大勢の客が温泉街の旅館・ホテルに殺到しました。ところが、いまでは、温泉で癒されることはもちろんのこと、「すごかった」「感動した」という感動体験がプラスされることによって、その温泉地の魅力がより引き立てられる時代になっています。また、家族・個人客が増えることは、多様な接客・おもてなしのスタイルが求められることを意味しています。本書では、そうした時代状況の変化にそくして、温泉街を変えていく必要性が示唆されています。

 

[あらすじ] 最大の壁はマスツーリズム時代の成長神話

長野県の阿智村役場の旅館関係者や観光協会の重鎮たちによって、「昼神温泉 地域活性化プロジェクト発起会」が行われました。地域活性化コンサルタントとして、三顧の礼をもって招かれたのは、二階堂剛です。彼は、過去の栄光を取り戻すべく、昼神の良さを積極的に全国展開していくことの必要性を声高らかに宣言します。具体策が提示されない彼の話に対して、ひとり浮いた存在であった若者が発言します。「なんかちょっと違う気がするんですよね……。ってゆうか。やっぱりディズニー超えしなきゃ、ダメなんじゃないんないんすか?」と。温泉旅館「竜宮亭」で働く新人・諸星明です。能天気で空気を読めないところありの26歳。その発言を契機に、衰退する温泉郷の立て直しに挑戦することに。しかし、周囲は無関心。二階堂に象徴されるようなかつてのマスツーリズム時代の成長神話に対する盲信、反対派の動きに抗して、諸星と数人の仲間たちが「ディズニーを超える」というキャッチフレーズを掲げ、活動を始めます。そして、「ヘブンスそのはら」を舞台に「星でお客さんを楽しませる 星空エンターテイメント」の実現をめざすのです。

 

そうだ、星を売ろう  「売れない時代」の新しいビジネスモデル

そうだ、星を売ろう 「売れない時代」の新しいビジネスモデル