「警備会社を扱った作品」の第二弾は、渡辺容子『ボディガード 二ノ宮舜』(講談社文庫、2015年)。スルガ警備保障に勤務する二ノ宮舜26歳。依頼主の身の安全を守るために死力を尽くすBG(ボディガード)の仕事と心の内が描写されています。『左手に告げるなかれ』でヒロインだった保安士の八木薔子がここでは、「五か国語を流暢に操る」優秀なボディガード、二ノ宮舜の上司として登場します。二人は、昨年の春、日本に戻ってくるまでは、同じニューヨークの警備会社で働き、難易度の高い任務を協力して成功させています。原題は、2013年7月に講談社から刊行された『罪なき者よ、我を撃て』。
[おもしろさ] 最高の警備は、顧客の安全と心の安らぎを提供する
「警備対象者の心理を先回りして理解できるくらいでないと、最高の警備は実施できない。何と言っても我々ボディガードは、顧客の安全とともに、心の安らぎを提供する究極のサービス業だ」。警護対象者に愛情を注ぐのは基本。しかし、恋愛の相手と見るのは一番のタブー。警備対象者の「趣味嗜好から物の考え方まで、すべて理解しておくことが望ましいそれによってマル対(警備対象者)の次の行動を事前に予測しやすくなり、その分、手厚い警護を提供できる。それには、まず相手に好奇心を抱き、どんな些細な変化も見逃さないことだ」。警備対象者が訪れた美容室。「店内に入るのはきょうが初めてでも、一昨日、実査の際に足を運び、店の構造と近くの道路状況は隈なく調べ、頭に入れてあった」。本書の魅力は、ボディガードの業務がその場限りのものではなく、顧客の安全と心の安らぎを提供するため、あらゆるリスクを想定し、かなり前から入念に準備されているという事実に気づかされることではないでしょうか!
[あらすじ] 「結婚式を中止せよ。さもなくば、惨劇が起きる」
赤ん坊のころから、ほとんどの年月を海外で過ごした二ノ宮舜。東大を中退してボディガードになった人物。新たな依頼主は、福富技研工業の福富繁春社長。来月3月25日、かねてから婚約中の風間小百合(料理研究家として活躍する一方、横浜では有数の資産家として知られています。大手食品メーカー「カザマ食品」の創業者の一族)と結婚式を挙げる予定になっています。二人とも、再婚です。依頼された業務は、①挙式・披露宴における身辺警護と会場の警備、②披露宴終了後、横浜港から出発する福富夫妻の45日間における身辺警護、③夫妻の留守の間、風間小百合の娘である風間小麦(高校生)を警護するという業務の三つ。そのうち、②を八木薔子、③を二宮が担当することになります。依頼のきっかけは、福富に届いた「結婚式を中止せよ。さもなくば、惨劇が起きる」という脅迫状。小麦は、事故で死亡したことになっている父親の麦生は、遺体が見つかっておらず、どこかで生きていると信じていました。それゆえ、母の再婚には反発していたのです。二ノ宮たちは、福富繁春氏と風間小百合の結婚に不満を抱き、嫌がらせ行為を働きかねない要注意人物には目を光らせ、入念な準備を行います。二人の結婚式は無事に終了したものの、数時間後に同じ会場で行われた別の結婚式の最中、花嫁が狙撃され死亡。しかも、小麦の家にも銃弾が撃ち込まれることに。こうして、ボディガードとスナイパーとの攻防が始まります。