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『クランクイン』 - 1年間でベストセラー小説を映画にせよ! 

「映画大好き人間を扱った作品」の第二弾は、相場英雄『クランクイン』(双葉社、2016年)。ベストセラーとなった作品を映画にする。しかも1年間で! 広告代理店に勤める主人公の「映画大好き人間」。ところが、製作については、まったくの門外漢。それでも、製作委員会の幹事社の代表として、映画の製作に身を投じます。めざすは、「原作を尊重しつつ、映画ならではの壮大な世界観を映し出す」作品。映画製作のプロセス、大変さと醍醐味が描かれています。

 

[おもしろさ] 一筋縄ではいかない数々の難問・課題が

映画ができるまでのプロセスとは、いかなるものでしょうか? 本書によると、原作者の合意→脚本家の選定→製作会社の決定→出資者の募集→出資のメドがつけば、スタッフとキャストの人選→カメラマンの決定→撮影といった流れがあるようです。しかも、それぞれのステップで詰めておかなければならない課題が目白押しなのです。この本のおもしろさは、きわめて限られた期間内に、沸き起こってくる数々の難問・課題がいかにクリアされていくのかを堪能できる点にあります。

 

[あらすじ] 「映画大好き人間」が製作現場でどう仕切る? 

準大手の広告代理店である京楽エージェンシーに勤務する「ごくごく平均的な34歳のサラリーマン」の根本崇。ある日、丹羽光一社長から直々に、庄野美希のベストセラー小説『永久の大地』の映画化を推進せよという社命を受けます。京楽は、「製作委員会の幹事社となって製作のほか宣伝など、作品全体を牽引する」ことになります。まったくの門外漢だったのですが、「映画大好き人間」の彼は、会社を代表して映画の製作現場で仕切るという任務に全力投球します。公開まで1年しかないというハードスケジュール。そのうえ、最初の難関とも言うべき原作者の庄野も一筋縄ではいかない人物でした。庄野は「他人を一切寄せ付けない人」だったからです。また、当初5億円と見積もられていた総製作費が、ほぼオールロケという前提条件の変更に伴い、15億円に膨れ上がっていきます。このほかにも、数々のトラブルが泉のごとく湧き上がって……。

 

クランクイン (双葉文庫)

クランクイン (双葉文庫)

  • 作者:相場 英雄
  • 発売日: 2020/04/16
  • メディア: 文庫