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『病院でちゃんとやってよ』 - 円滑な介護のための準備をリハビリ病棟で

 「老人介護を扱った作品」の第二弾は、小原周子『病院でちゃんとやってよ』(双葉文庫、2020年)。にわかにふりかかった介護問題に動揺する家族たちの素顔を、リハビリを支援する看護師の視点から描いています。現役の看護師が描く「介護小説」であり、おもしろさ満載のお仕事小説でもあります。

 

[おもしろさ] 介護への不安が病院に対する無理難題の言い分を! 

「昔は死ぬまで入院可能だったという病院も、時代の流れとともに変わり、初めから入院期間が設けられている。一定の期間内に退院させなければ、国が病院への診療報酬を負担してくれなくなるので、どこの病院でも今は退院支援に力を入れている」。したがって、リハビリ病棟で働く看護師の一番の仕事は、オムツの交換、着替えの仕方、身体の拭き方、手足の洗い方、車椅子の使い方をはじめ、患者およびその家族に自宅介護のために必要なことを身に着けてもらうこと、場合によってケアマネージャーやヘルパーなどの支援を受けながら、家での介護を円滑に行っていくための条件整備を行うことにほかなりません。もちろん、患者もその家族にもそれぞれの事情があり、不安があります。親の介護といった、まさに未知の領域に属することでもあり、自信のある人などほとんど皆無。そこで、本音を言えば、なんとかできる限り長く病院で面倒を見てもらいたいと思っているのです。ものすごく手のかかる患者や、こちらの意見などまるで聞こうともしない家族など、無理難題を言い立てる人が出てくるのです。あの手この手のわがままを「どうにかこうにか丸め込んで自宅退院させるのが、新菜たちの仕事」。この本のおもしろさは、そうした看護師のお仕事、患者やその家族とのがリアルに再現されているのです。

 

[あらすじ] 「患者を家に帰す」というミッションを掲げて

埼玉県南部にある大浦東病院に勤務する35歳の看護師・大八木新菜。リハビリ病棟に配属されている彼女は、年から年中、患者やその家族に振り回される日々を送っています。特に退院支援などは骨の折れる仕事なのですが、「人様の役に立っている!」を実感することで、やりがいを感じています。リハビリ自体は理学療法士が担当するので、看護師の主な仕事は、トイレ介助、食堂への移動、食事の介助、患者との会話、家族との相談、退院後の介護のための指導書の作成などになります。ストレス解消のために、自宅の最寄り駅の近くにあるスポーツジムでエアロビのレッスンに通いつつ、「患者を家に帰す」というミッションを果たすべく、新菜の奮闘が続きます。

 

病院でちゃんとやってよ (双葉文庫)

病院でちゃんとやってよ (双葉文庫)

  • 作者:小原 周子
  • 発売日: 2020/02/13
  • メディア: 文庫