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『小説GHQ』 - 戦後日本の始まりは、焼け野原の中での茫然自失から

1945年の終戦から高度成長が始まる1955年までの「戦後復興期」。日本ではまだ、戦災の爪痕が大きく残り、人々は物資・食糧の欠乏に苦しんでいました。焼け野原の中での茫然自失から始まった戦後日本の第一歩は、どのようなものだったのか? 歩むべき道など、まったく見通せない時代における人々の試行錯誤とは、いかなるものだったのか? 戦中から戦後にかけて、会社の経営者にはどのような変化があったのか? さらには、モノに囲まれた「豊かな時代」が実現される以前の日本人の生活とは? 今回は、おもしろさ満載の戦後復興期を素材にした作品を三つ紹介します。

「戦後復興期を扱った作品」の第一弾は、梶山季之『小説GHQ』(集英社文庫、1981年)。終戦に伴い、日本はただちに連合軍の占領管理下に置かれました。GHQ連合国軍総司令部)の指令や指示は、絶大な効力を発揮。日本政府は、GHQの傀儡政権のような存在に。本書は、闇に包まれたGHQ内部のみならず、時代状況、人々の生活ぶりなどを見事なタッチで浮き彫りにした力作です。

 

[おもしろさ] GHQから見る戦後史の実相・裏面

財閥解体公職追放、農地改革などのGHQによる諸政策の実態、GHQ内部での路線対立(再建は日本人の手で行うべきであるとする穏健な「日本派」と占領下の日本で自分たちの理想の国家建設を実験しようとする強硬な「ニューディーラー派」)、闇市での物価と公定価格とのギャップ、マッカーサーのプロフィール、原爆を受けた直後の悲惨な広島の状況をはじめとして、戦後直後の日本の社会・経済史の実相・裏面が小説という形で再現されています。

 

[あらすじ] 戦争直後を生き抜いた登場人物のリアルな人生紋様

主に6人の登場人物のそれぞれの人生紋様がリアルに再現。具体的には、①茫然自失のほかの兵隊たちを尻目に、隠されていた膨大な軍需物資をうまく調達し、ブローカー業からさらには実業家に転身し、戦後の混乱期を逞しく生きていく姫野八郎(国際興業の社主・小佐野賢治がモデル)、②三井系軍需会社の社長で、三井財閥の解体をなんとか阻止しようと奔走する伯爵家の綾小路秀樹、③綾小路秀樹を父に持つが、なかなか自分の生きる道を決めきれないでいる元陸軍中尉の綾小路冬彦、④日本人とアメリカ人の二つの考え方を有し、GHQの通訳として派遣された日系二世のトム・塚田、⑤以前から交友関係を有した綾小路家やGHQ関係者とのコネをうまく利用して、新しい道を模索し、逞しく生きていく島田子爵夫人、⑥姫野にいろいろな助言を行う、知恵持ちの一高生・田丸小弥太などの興味深い登場人物が配置されています。