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『トラットリア・ラファーノ』 - 神戸・元町の イタリアン・レストラン

「イタリアン・レストランを扱った作品」の第二弾は、上田早夕里『トラットリア・ラファーノ』(ハルキ文庫、2017年)です。神戸・元町にある「トラットリア・ラファーノ」が舞台。お店の運営、料理の開発・勉強、店の雰囲気づくり、店内で流す曲の選定などに情熱を注ぐ杉原家の三人兄弟(義隆、和樹、彩子)の姿が描写。友情と恋愛との間で揺れ動く男女間の心の機微も浮き彫りにされています。「家族経営のレストラン」を舞台にしたお仕事小説でもあります。

 

[おもしろさ] ささやかな刺激と楽しみを添えられるように! 

「ラファーノ」とは、イタリア語で「西洋わさび」の意味。地味で目立たないが、肉料理の味を引き立ててくれる大切な薬味で、「お客さまの人生に、ささやかな刺激と楽しみを添えられるように」という意味を込めて命名されました。料理を「作る側」のそうした思い入れは、「食べる側」にどのように伝播していくのでしょうか?

 

[あらすじ] 仕事・料理・友情・恋愛で揺れ動く和樹

「トラットリア・ラファーノ」の座席数は38、ごく平均的な規模のお店。厨房を担当するのは、父親が経営していた「トラットリア・スギハラ」を継承して、4年前に経営に関与し始めた兄の杉原義隆(シェフ)と妹の彩子。それに対して、僕(杉原和樹)はホール係。厨房とテーブルの間を伝書鳩のように往復し、「雑多な事柄を一手に引き受ける役回りで、これをやるものがいないと、この規模の店の運営はままならない」のです。ただし、自分でも、料理・調理の勉強をマイペースで行っています。ある日、高校の同窓生・邦枝優奈が来店。お店が気に入ったらしく、彼女は何度か通ってくるようになります。そして、「杉原君が作ったお料理を食べてみたい」と言われるように。しかし、そのあとに高校時代のソフトテニス仲間であり、優奈と結婚の約束をしている田之倉伸幸も店にやってきます……。ちなみに、家族経営の場合、シェフが倒れたらおしまいになるというリスクがあります。そのため、収入源を別筋で確保しておくことが賢明な判断となることもあって、義隆の妻は動物病院で看護師として働いています。