経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『教場』 - 冷酷冷徹な白髪教官・風間公親

2023年6月14日、事件が起こりました。入隊間もない18歳の自衛官候補生(守山駐屯地所属)が自動小銃を発砲し、指導役として教育に当たっていた陸上自衛隊員の上官3名を死傷させたのです。候補生が自衛官に任官されるまで3カ月。さらに1年9カ月の任期を終える…

『グリーン・グリーン』 - 都会育ちの農業オンチが農林高校の教師に! 

「高校教師を扱った作品」の第二弾は、あさのあつこ『グリーン・グリーン』(徳間文庫、2017年)。県立喜多川農林高校の教師になった翠川真緑(みどりかわ みどり)。「グリーン・グリーン」は彼女のあだ名です。都会育ちで、農業オンチのグリーン・グリーン…

『学校のセンセイ』 - 高校教師の右往左往! 

教師モノのドラマや小説の主人公。連想しがちなのは、ヒーローのような活躍とか、頼りがいのある「先輩」とか、品行方正な人格者とか、「教師=尊い職業」といった考え方ではないでしょうか? しかし、教師もまた人間。生徒との距離感がわからなかったり、仕…

『羊と鋼の森』 - 「心が震えるような美しい音色」を作り出す調律師! 

「ピアノを扱った作品」の第二弾は、宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋、2015年)。弦の張りを調整し、ハンマーを整え、ピアノがより美しく音楽を形にできるようにする調律師。ピアニストが美しい音を出せるには、彼らの存在を欠かすことができません。高校…

『ピアノマン』 - ジャズピアニストの苦悩のかなたにあるもの! 

『エリーゼのために』という曲のよく知られた冒頭。ほんの一節ですが、学生時代の一時期、ピアノで音を出せたことがあります。とてもうれしく思った。そんな記憶があります。それ以来、ピアノに触れる機会はなく、聴くこともほとんどありません。ただ、何年…

『小説 若おかみは小学生!』 - 誰も拒まない。受け入れ、癒してくれる「春の屋旅館」

「旅館の女将を扱った作品」の第二弾は、令丈ヒロ子(原作・文)、吉田玲子(脚本)『若おかみは小学生! 劇場版』(講談社文庫、2018年)。交通事故で両親を亡くした小学校六年生の関織子(通称おっこ)が祖母の営む温泉旅館「春の屋」で若女将として修業す…

『海近旅館』 - 省力化 + サービスの充実 ⇒ 旅館の立て直し

コロナ禍で、人の移動が大きく制限され、深刻な打撃を受けた宿泊業界。政府が旅行代金を補助する全国旅行支援を始めたのが、2022年10月。それ以降、日本人の延べ宿泊者数は大きく増加しています。ところが、多くの従業員が辞めてしまったことで、今度は深刻…

『かすがい食堂』 - 駄菓子屋から始まり、子ども食堂につながっていく

「食堂を扱った作品」の第三弾は、「子ども食堂」の発足につながる試みを描いた伽古屋圭市『かすがい食堂』(小学館文庫、2021年)。東京・下町の「駄菓子屋かすがい」を受け継いだ春日井楓子は、拒食症をはじめ、さまざまなトラブルを抱える子どもたちのた…

『小説 体脂肪計タニタの社員食堂』 - 社員食堂でのお仕事とダイエットへの挑戦

「食堂を扱った作品」の第二弾は、社員食堂を対象にした田中大祐『小説 体脂肪計タニタの社員食堂』(角川文庫、2013年)。世界初の家庭用体脂肪計を開発した健康計測機器メーカー「タニタ」で始まった社員のダイエットプロジェクトの顛末記。一筋縄ではいか…

『食堂のおばちゃん』 - 「町の定食屋」というお仕事

暖簾をくぐり、ドアを開けると、視野に入るのは、四人掛けの簡易テーブルとイスが置かれた「食堂」という世界。壁には、料理名を書いた紙がいくつも貼られています。どれを注文しようかと考えていると、香ばしさに、思わずお腹が鳴りそうになることも……。食…

『建築士・音無薫子の設計ノート』 - リフォームではなく、リノベーションを

「住むところを扱った作品」の第四弾は、逢上央士『建築士・音無薫子の設計ノート-あなたの人生、リノベーションします。』(宝島社文庫、2017年)。建築上のさまざまな悩みや問題への解決策を求め、音無建築事務所を訪れるクライアント。彼らの要望のウラ…

『そのマンション、終の住処でいいですか?』 - 中古マンションの建て替え問題

「住むところを扱った作品」の第三弾は、原田ひ香『そのマンション、終の住処でいいですか?』(新潮文庫、2022年)。有名な建築家・小宮山悟朗によって設計され、大きな話題を呼んだ「赤坂ニューテラスメタボマンション」。しかし、いまではとんでもない欠…

『ニュータウンクロニカル』 - 若葉ニュータウン50年史

「住むところを扱った作品」の第二弾は、中澤日菜子『ニュータウンクロニカル』(光文社文庫、2020年)。多摩ニュータウンを連想させる若葉ニュータウン。1971年から2021年までの半世紀に、巨大団地が歩んだ年代記。10年ごとの姿を描いた6つの短編から構成さ…

『くうねるところすむところ』 - 「小さな工務店」の「大きな物語」

家という商品は、食べ物や服や靴とは大きく異なります。自分のものにしようと思えば、普通は20年、30年という長期ローンを組まなければならないほど、お金がかかります。その結果、働いて稼ぐお金のうち、かなりの部分がローンに吸い上げられることになりま…

『競争の番人』 - 公正取引委員会の「誇りと使命」

「会社のトラブルを扱った作品」の第五弾は、新川帆立『競争の番人』(講談社、2022年)です。資本主義のバイタリティを支える条件のひとつに、「公平な競争」があります。公平な条件下で行われる経済活動こそが、それに関わる人々の「ヤル気」と「頑張り」…

『あなたの職場に斬り込みます!』 - 厚労省「特例事案指導官」

「会社のトラブルを扱った作品」の第四弾は、上野歩『あなたの職場に斬り込みます!』(光文社文庫、2022年)。さまざまな労働関連の法規に基づき適切な就業環境づくりを指導する立場にある労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)。いずれも労働局…

『ひよっこ社労士のヒナコ』 - 顧問企業との距離感のむずかしさ

「会社のトラブルを扱った作品」の第三弾は、水生大海『ひよっこ社労士のヒナコ』(文藝春秋、2017年)です。社労士の正式名称は、「社会保険労務士」という国家資格者。「おおざっぱに言えば、会社の総務部のお手伝い」。採用から退職までの労働・社会保険…

『ハラスメントゲーム』 - ハラスメント事情の最前線! 

「会社のトラブルを扱った作品」の第二弾は、井上由美子『ハラスメントゲーム』(河出書房新社、2018年)です。マルオーホールディングス本社のコンプライアンス室長に任命された秋津渉が、唯一の部下である高村真琴とともに、セクハラ、パワハラなどの難問…

『就業規則に書いてあります!』 - ブラック体質と格闘する女性労務管理者

多くの人たちが一緒に働いている会社。が、社員たちが生まれ育った環境や境遇はバラバラです。仕事のやり方やスピード感はけっして一様ではありません。さらに、上司と部下、男性と女性、正社員と非正規社員の間では、大きな考え方の違いやズレが横たわって…

『殺し屋、やってます。』 - 証拠を残さない「クールな殺し屋」

「殺し屋を扱った作品」の第二弾は、石持浅海『殺し屋、やってます。』(文春文庫、2020年)です。「やるべきことをきっちりやってこその職業」という考えの持ち主である富澤充。経営コンサルタントというオモテの稼業と殺し屋というウラの稼業をうまく使い…

『殺し屋のマーケティング』 - 「受注数世界一の殺しの会社」! 

「殺し屋」という闇稼業を描いた小説。非常にたくさん書かれています。しかし、それを「ビジネス」もしくは「仕事」と見立てた作品となると、非常に限られてくるように思われます。殺人は違法です。それゆえ、大々的に宣伝することはできません。もちろん営…

『派遣社員あすみの家計簿』 - 「お嬢さま」が経験する金欠・節約生活のリアル

「家計を扱った作品」の第二弾は、青木祐子『派遣社員あすみの家計簿』(小学館文庫、2019年)です。彼氏に騙され、「寿退社」してしまった28歳の藤本あすみ。ノー天気なところがある「お嬢さま」。どのようにして、生計を立てていくのでしょうか? 節約生活…

『三千円の使いかた』 - 御厨家女性四人の金銭感覚と「生活防衛」

企業や政府とともに、経済活動(収入・支出・投資・貯蓄)の主体として大きな役割を果たしているのは、家計です。経済小説の素材として非常に頻繁に扱われる企業とは対照的に、家計を扱った作品は、極めて少ないと言わざるを得ません。物価が高騰し、依然と…

『いつまでも白い羽根』 - 医療・看護現場とのファースト・コンタクト

「看護師を扱った作品」の第二弾は、藤岡陽子『いつまでも白い羽根』(光文社文庫、2013年)です。看護師になるためには、看護師国家試験に合格する必要があります。その受検資格を得るためには、指定された看護学校を卒業しなければなりません。本書では、…

『ナースコール!』 - やる気が出なかった看護師の成長物語

病気を患ったとき、白衣に身を包んだ医師と看護師ほど、頼りになる存在として映るものはありません。とはいえ、彼らもまた人の子。弱音を吐きたくなることもしばしばです。多くの場合、患者の治療やケアで心休まる時間もないほど厳しい労働を強いられている…

『女神のサラダ』 - 人生いろいろ、農家もいろいろ

「農業を扱った作品」の第三弾は、瀧羽麻子『女神のサラダ』(光文社、2020年)です。全国各地の多様な農家が舞台。さまざまな悩みを抱えることで「迷子になった女性たち」が、農業との関わりのなかで、生への指針と希望を見出していきます。八つの短編小説…

『農業男子とマドモアゼル』 - 30歳から始まった都会育ち女性の「農業ライフ」

「農業を扱った作品」の第二弾は、甘沢林檎『農業男子とマドモアゼル』(富士見L文庫、2017年)です。農業についての知識は皆無、関心さえなかった都会育ちの女性が、長野県の田舎で農業に携わることに。恋心を抱くようになる、実直で面倒見の良い地元の青年…

『おいしい野菜が食べたい!』 - 慣行農法 VS 有機栽培

広い耕地を大型の農業機械で耕作する欧米型の大農法。他方、日本農業を特徴づけてきたのは、狭い耕地に比較的多くの労働力と化学肥料を使う集約農業でした。しかし、既存の農業・農村はいまや、さまざまな点で曲がり角に立たされています。農業人口の激減だ…

『活版印刷三日月堂』 - 古い印刷所を蘇らせる活路! 

「印刷所を扱った作品」の第二弾は、ほしお さなえ『活版印刷三日月堂 星たちの栞』(ポプラ文庫、2016年)です。川越の町にある古い印刷所・三日月堂が舞台。「扉を開けると向かい側にすぐ活字の棚。壁は四方すべて活字のはいった棚で覆われている。鴨居の…

『本のエンドロール』 - 本づくりを陰で支える印刷会社の裏方たち

街を歩くと、目に飛び込んでくる、色とりどりの多様なポスター。毎日、世の中の動きを克明に伝えてくれる新聞。そこに挟みこまれた生活情報満載のチラシ。日常生活に潤いを与えてくれる本や雑誌……。それらを支えているのは、印刷に関わるさまざまな技術であ…