経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

2021-01-01から1年間の記事一覧

『カラ売り屋、日本上陸』 - あくどい経営者に「天の裁き」を

「カラ売り屋を扱った作品」の第三弾は、黒木亮『カラ売り屋、日本上陸』(角川書店、2020年)。パンゲアによる「カラ売り屋」シリーズ三作目の作品です。ニューヨークのカラ売り屋が東京に日本事務所を開設。巨大医療グループ、シロアリ駆除会社、総合商社…

『リストラ屋』 - 強欲な「コストカッター」に挑む

「カラ売り屋を扱った作品」の第二弾は、黒木亮『リストラ屋』(講談社、2009年)。パンゲアと北川靖による「カラ売り屋」シリーズ二作目に当たる作品。スポーツ用品メーカーの新しい経営者として招聘された人物は、人とコストをギリギリの極限状態まで減ら…

『カラ売り屋』 - あくどい企業を探し出し、調べ、徹底的に戦う

空(カラ)売りとは、投資対象である物を保有せずに、対象物を売る契約を結ぶこと。「株式のカラ売りの場合は、証券会社などから借りてきた株を市場で売却し、株価が下がったところで買い戻し、借りていた株を返却」。その差額で利益を得る取引のことです。…

アクセス数2万突破! 

「経済小説イチケンブログ」のアクセス数が1万PVを突破したのは、昨年の10月でした。それから11か月が経過した9月2日に2万PVを突破しました。うれしいです。ご覧になってくださった方々に感謝します。 毎日、空いている時間が少しでもあれば、経済小説・お仕…

『ウイスキーボーイ』 - 宣伝マンの矜持

「ウイスキーを扱った作品」の第二弾は、吉村喜彦『ウイスキーボーイ』(PHP文芸文庫、2014年)です。かつて、ウイスキーはモルトだけでした。シンプルで、性格がストレートに出ます。ところが、産業革命で連続式蒸留器が発明され、グレイン・ウイスキーとい…

『リタとマッサン』 - 国産ウイスキーの誕生に生涯をかけて夫婦

いまや海外でも高い評価を受けている国産ウイスキー。2021年8月現在、稼働中の蒸留所は39カ所にまで増加しています。しかし、国産ウイスキーに向けての最初の動きがあった1920年頃はまだ、アルコールに色と香りをつけた「名ばかりのウイスキー」が横行してい…

『ジバク』 - 「人生の勝ち組」から「どん底」への転落

「転落を扱った作品」の第二弾は、山田宗樹『ジバク』(幻冬舎、2008年)です。優秀なファンドマネージャーであった主人公が、高校時代のクラス会で憧れていた女性と再会したことを契機に、「転落人生」を転げ落ちていくことになります。地獄のどん底まで落…

『東京難民』 - 転落人生のプロセスと結末

同じことの繰り返しで過ぎていく平穏な毎日。長く続けていると、そのありがたさは見失われてしまいがちに……。そのようなとき、誰しもが経験するかもしれない人生の転落ぶりを描いた小説を読めば、どのような感想を持つでしょうか? 今回は、あることを契機に…

『ブルーベリー作戦成功す』 - 新薬開発に伴う特許戦争

「知的財産を扱った作品」の第三弾は、池上敏也『ブルーベリー作戦成功す』(幻冬舎、2014年)です。特許戦争の全貌を書き記した本書は、特許出願中の抗生物質の販売停止を強く要請する「警告書」から始まる壮大な物語です。敵対する巨大な多国籍企業に特許…

『ロボジョ!』 - 知財ビジネスの基本! 

「知的財産を扱った作品」の第二弾は、稲穂健市『ロボジョ! 杉本麻衣のパテント・ウォーズ』(楽工社、2020年)です。大学生の主人公が開発したロボットやそれに搭載する技術の開発状況、その活用方法、成果物をめぐる争奪戦が描写。巻末に「知的財産権 入…

『それってパクリじゃないですか?』 - 知財関連で働く人へのお助け本! 

アメリカにおいて、知的所有権(発明やデザインなど、精神的創作努力の成果としての知的成果物を保護する権利の総称)の保護戦略が本格的に進められる契機になったのは、レーガン政権下の1985年1月に出された「ヤング・レポート」と考えられています。そこで…

『ほどなく、お別れです』 - 葬儀社という仕事の真髄と、葬式の本質

「『生と死』を扱った作品」の第二弾は、長月天音『ほどなく、お別れです』(小学館、2018年)です。清水美空には、美鳥という姉がいました。生まれる前に先立ってしまったのですが、夢の中では「幼い姿の姉」と何度も遭遇。そして、彼女によって守られてい…

『むかえびと』 - 新しい命を迎える助産師というお仕事

かつて梓みちよさんが歌ったヒット曲『こんにちは赤ちゃん』。「こんにちは赤ちゃん あなたの笑顔…… あなたの泣き声 その小さな手 つぶらな瞳 はじめまして わたしがママよ……」。思わずハミングしてみたくなる永六輔さんの歌詞。生まれてきた新しい命に対す…

『55歳からのハローライフ』 - 人生の折り返し点からの「再出発」

「中高年を扱った作品」の第三弾は、村上龍『55歳からのハローライフ』(幻冬舎、2012年)。①離婚した女性58歳の婚活、②出版社をリストラされたあと、アルバイトでなんとか生計を維持している58歳の男性、③早期退職に応募し、キャンピングカーで全国を旅する…

『早期退職』 - 「リストラ」を促された中高年社員の悩みと不安

「中高年を扱った作品」の第二弾は、荒木源『早期退職』(角川文庫、2018年)です。働く中高年男性社員の悩み事は、『雨の日は、一回休み』で扱われたような若手社員や女性社員との距離感をどのようにとっていくのかという点に関わることだけではありません…

『雨の日は、一回休み』 - 世代間ギャップと女性との距離感に悩むおじさんたち

人は皆、人生の折り返し点を過ぎ、いわゆる「中高年」と称される年代になると、体力の衰えを感じたり、老いを意識したりすることが増えてきます。老後に向けて生活費を円滑にねん出することができるかどうかという、経済的な不安も、頭の中にこびりつき、離…

『ひまりの一打』 - プレイヤーとキャディというタッグを通して

「アスリートを扱った作品」の第三弾は、半田畔『ひまりの一打』(集英社文庫、2021年)。プロゴルファー・中原ひまりのゴルフに対する考え方・思い入れを軸に、女子プロの世界、コーチ・キャディというタッグのあり方、スポンサーとの関係、ライバルとの駆…

『ゲームセットにはまだ早い』 - 野球のクラブチームの実態! 

「アスリートを扱った作品」の第二弾は、須賀しのぶ『ゲームセットにはまだ早い』(幻冬舎文庫、2017年)です。新潟県で町おこしの一環として創設されたばかりのクラブチーム「三香田ヴィクトリー」が舞台。チームを構成する監督・キャプテン・選手・マネー…

『独走』 - 「金メダル倍増計画」が問いかける! 

まもなく開会式を迎える東京オリンピック。世界中のトップアスリ-トが集うこの大会は、本来ならば、世界中の多くの人々の関心と声援の的になるはずのものでした。ところが、コロナ禍の影響で、なんとなく盛り上がりに欠けています。戸惑いを感じている方も…

『ニュータウンは黄昏れて』 - 建て替え・修復から再生・活性化へ

「マイホームを扱った作品」の第三弾は、垣谷美雨『ニュータウンは黄昏れて』(新潮文庫、2013年)。東京郊外のニュータウンに住むある家族の苦境・現状からの脱却を軸に、建物の建て替え・修復、さらにはニュータウンという地域の再生・活性化に関わる問題…

『亀裂-老朽化マンション戦記』 - 建て替えか、それともこまめな補修か

「マイホームを扱った作品」の第二弾は、江波戸哲夫『亀裂-老朽化マンション戦記』(光文社文庫、2004年)です。マンションの建て替えをめぐって展開される、賛成・反対という住民同士の軋轢・利害対立だけではなく、建て替えを新規建設に匹敵する重要なマ…

『家路の果て』 - マイホームの夢と現実

「人生最大のお買いもの」。その言葉を聞いて、多くの人が想定するのは、マイホームではないでしょうか? 「一戸建てか、マンションか」の選択、資金の調達、業者選びから始まって、価格・場所・部屋の構成、周辺の環境や利便性など、買おうと思いたってから…

『できない男』 - 「できない」という自信のなさからの脱出! 

「『ダメな男』を扱った作品」の第二弾は、額賀澪『できない男』(集英社、2020年)です。同じくデザイン業界で働くふたりのアラサーの「できない男」の交流と成長の物語。恋愛経験がなく、仕事もさえない芳野荘介。他方、仕事は有能でも、本気で恋愛に踏み…

『被取締役新入社員』 - 新入社員は正真正銘の「ダメ男」! 

小説の主人公としては、多くの場合、特定の領域で秀でた力を発揮する、与えられたことと精いっぱい向き合う、新しいことに挑んでみるような人物像が想定されるのではないでしょうか。もちろん、なにをやらせてもうまくいかない「ダメな人間」「できない人間…

『ザ・リコール』 - たとえ欠陥があることがわかっていたとしても

「リコールを扱った作品」の第二弾は、志摩峻『ザ・リコール』(ダイヤモンド社、2006年)です。たとえ欠陥があることがわかっていたとしても、リコール隠しを押し進めようとする自動車メーカーを軸に、大手損害保険会社、甘い汁を吸おうとする暴力団などの…

朝日新聞に記事が出ました

2021年6月24日付の『朝日新聞』文化欄。「日本経済の盛衰 小説が映す-作家・高杉良さん 自伝的作品を刊行」というタイトルの記事が掲載されています。それは、日本を代表する経済小説作家の一人である高杉良さんの自伝的作品である『破天荒』をはじめ、デビ…

『空飛ぶタイヤ』 - リコールをめぐる当事者間での利害と思惑の交錯

リコール制度。設計・製造過程に問題があったとき、生産者が製品を回収して無料で修理することを意味します。その目的は、事実を公表し回収・修理をすることで、事故やトラブルを未然に防止することにあります。しかし、製品に問題があったということを明ら…

『ディーセント・ワーク・ガーディアン』 - 「まっとうな仕事ができるように」

「労働基準監督官を扱った作品」の第二弾は、沢村凛『ディーセント・ワーク・ガーディアン』(双葉文庫、2014年)です。「労働基準関連法規に一点の違反もしていないと胸を張れる事業主は、めったにいない」という現実と格闘する労働基準監督官のリアルを描…

『労働Gメンが来る!』 - 彼らの「生の声・思い・表情」が浮き彫りに

昨今、大きくクローズアップされている国家的課題の一つに「働き方改革」があります。厚生労働省の定義にしたがえば、それは「働く人びとが個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革」とされています。背景にあるのは、…

『閉店屋五郎』 - 中古屋を営む五郎の心意気

「不要品を扱った作品」の第二弾は、原宏一『閉店屋五郎』(文藝春秋、2015年)です。倒産した会社や閉める店舗の備品(厨房機器、オフィス機器、家具、道具類など)を買い取って、自分の店「中古屋 五郎」で販売することを稼業としている五郎。閉店時の買い…