経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

2020-01-01から1年間の記事一覧

『闘う女』 - 強い人間になると、自分に言い聞かせながらの闘いと葛藤

「働く女性を扱った作品」の第三弾は、朝比奈あすか『闘う女』(実業之日本社文庫、2015年)。夢を抱いていても、その夢を成就する才能も運も持ち合わせていないごく「普通の人」。寂しくて、不安に満ちて、母に甘えたいという本心を覆い隠し、寂しくない、…

『ガール』 - ガールとの決別! 働く30代女性の微妙な心情

「働く女性を扱った作品」の第二弾は、奥田英朗『ガール』(講談社文庫、2009年)。まだ「若い女の子=ガール」で通用するのか、もはやそうではないのか? そんな微妙な悩みに直面するのが30歳代の女性たち。彼女たちが直面する職場でのトラブル、悩み、行動…

『女たちのジハード』 - 五人五色の人生ドラマ

総務省が2019年7月30日に発表した同年6月の労働力調査によると、女性の就業者は3003万人。比較可能な1953年以降、初めての3000万人越えとなりました。また、女性の生産年齢人口(15歳~64歳)の就業率は71.3%に達しています。しかし、働く女性の増加ととも…

『セカンドステージ』 - 主婦に代わって、家事を代行してくれる会社

「起業を扱った作品」の第四弾は、五十嵐貴久『セカンドステージ』(幻冬舎文庫、2014年)。主婦として子育てと家事で苦労したという自らの経験が起業の動機になっています。マッサージ師と家事代行を派遣するという会社を起業したのは、二人の子どもを持つ3…

『ヒールをぬいでラーメンを』 - 起業への起爆剤は「憎しみ」! 

「起業を扱った作品」の第三弾は、栗山圭介『ヒールをぬいでラーメンを』(角川春樹事務所、2019年)。大手IT企業に勤めていた門坂有希は、突然のクビ宣告で茫然自失に。でも、自分を捨てた社長を見返すべく、ラーメン店を起業します。構想から開店までの全…

『トレジャー』 - 起業するときに不可欠なメンターの存在とは? 

「起業を扱った作品」の第二弾は、犬飼ターボ『トレジャー 成功者からの贈り物』(飛鳥新社、2010年)。働きがいを感じることなく、悶々とした日々を過ごしていた会社員の男性が、メンター(助言をくれたり指導してくれる人)のアドバイスのもと居酒屋を立ち…

『風のマジム』 - 沖縄の風に吹かれて育ったラム酒の製造会社を

かつての日本には、入社した会社で定年まで勤めるという「終身雇用」が幅を利かせていました。ところがいま、働き方が多様化してきています。また、自分自身の「働き方」を模索するなかで、転職や起業を経験する人も多くなっています。起業には、個人事業主…

『わたしの神様』 - 女性アナウンサーの暗部を浮き彫りにした稀有な作品! 

「テレビ局を扱った作品」の第五弾は、小島慶子『わたしの神様』(幻冬舎、2015年)です。著者はTBSの元アナウンサー。女性アナウンサーと彼女たちを取り巻くテレビ局における人間関係が赤裸々に描かれています。アナウンサーの思考様式、処世術、そして仕事…

『記者の報い』 - インタビュアーの苦悩と誘惑・快感の挟間で

「テレビ局を扱った作品」の第四弾は、松原耕二『記者の報い』(文春文庫、2016年)です。著者は、かつてTBSの『筑紫哲也NEWS23』に関わったあと、『ニュースの森』のメインキャスターやニューヨーク支局長を務めた人物。知り尽くした、テレビ局の報道現場が…

『ブラック・ローズ』 - 花形プロデューサーがじわじわと追い詰められていく

「テレビ局を扱った作品」の第三弾は、新堂冬樹『ブラック・ローズ』(幻冬舎、2009年)。テレビ局に対する大手プロダクションのごり押しに端を発するもめ事で責任を感じさせ、父を自殺に追い込んだ「ドラマ界の帝王」と称されるプロデューサー・仁科真一。…

『ガラスの巨塔』 - 巨大公共放送局における優等生集団の横並び体質と嫉妬

「テレビ局を扱った作品」の第二弾は、今井彰『ガラスの巨塔』(幻冬舎、2010年)。著者は、元NHKの看板プロデューサーで、人気番組「プロジェクトX」を立ち上げた人物。巨大公共放送局(モデルはNHK)の内幕を描いた「小説」。最後まで読んで「この小説を…

『第四権力』 - 検証能力と批判精神の低下が進むテレビ局! 

電通が発表した媒体別広告費によりますと、2019年、インターネットの広告費(2兆1048億円)がついにテレビ(1兆8612億円)を抜き去りました。しかしながら、テレビは、依然としてわれわれの日常生活に深く浸透しています。その報道力は、時として行政・立法…

『これより良い物件はございません!』 - 都内での物件探しに役立ちます! 

「不動産会社を扱った作品」の第四弾は、三沢ケイ『これより良い物件はございません!東京広尾・イマディール不動産の営業日誌』(宝島社文庫、2020年)。不動産会社の業務、そこで働く人たちの悩みと楽しみ、最近のマンション事情が紹介されていて、都内で…

『お客さま、そのクレームにはお応えできません!』 - クレーム対応のトリセツにも

「不動産会社を扱った作品」の第三弾は、三浦展『お客さま、そのクレームにはお応えできません! [小説]不動産屋店長・滝山玲子の事件簿』(光文社知恵の森文庫、2017年)。昨今における都内の不動産屋の仕事内容、働いている人のホンネ、賃貸住宅の現状がよ…

『営業の新山さんはマンションが売れずに困っています』 - 新人がお客様第一号を獲得するまでの長い道のり

「不動産会社を扱った作品」の第二弾は、タカナシ『営業の新山さんはマンションが売れずに困っています』(光文社キャラクター文庫、2019年)。マンション販売の最前線の状況、不動産会社の業務内容を楽しみながら知ることができる作品です。マンション販売…

『狭小住宅』 - 上司の暴力的なプレッシャーのなかで苦悶する営業マンの「変身」物語

「衣食住」。「着ること」「食べること」「住まうこと」の三つは、まさに生活の基本です。しかも、いずれも参入が容易であることから、個人経営の会社を含め、非常にすそ野の広い業界になっています。今回は、そのなかで、市場規模が最も大きな不動産業界に…

『再雇用警察官』 - 定年後も働く再雇用警察官ならではこそのメリットが! 

「警察官を扱った作品」の第四弾は、姉小路祐『再雇用警察官』(徳間文庫、2019年)。定年を迎えた辣腕刑事。再雇用警察官として、行方不明者の捜査に携わるなか、それまでに培った人脈と勘で難事件と向き合います。テレビ東京系列の「月曜プレミア8 ドラマ…

『脇坂副署長の長い一日』 - 「根っからの警察官」って? 

「警察官を扱った作品」の第三弾は、真保裕一『脇坂副署長の長い一日』(集英社、2016年)。地元出身のアイドル歌手が「一日署長」を務めることになる交通安全運動の初日。脇坂誠司副署長に次々と降りかかるトラブル・事件。長い一日を分刻みで突っ走る脇坂…

『サイレント・ヴォイス』 - 被疑者の自供率百パーセントを誇る取調官

「警察官を扱った作品」の第二弾は、佐藤青南『サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻』(宝島社文庫、2012年)。行動心理学を駆使したユニークな取り調べを行う女性警察官の仕事ぶりを描いています。2020年5月~7月にテレビ東京系列で放映された「…

『ボクの町』 - 交番に勤務する警察官のお仕事のあれこれ

あなたが好きな小説は? 最近では、映画やドラマでも頻繁に取り上げられている警察小説が挙がるかもしれませんね。警察小説とは、事件や犯罪に対する警察官・刑事や警察機構・組織による捜査活動を対象とした小説のこと。いまでは、ミステリー、ハードボイル…

『ホテルジューシー』 - 「炊き込みご飯」のようなホテルでのバイト経験

「ホテルを扱った作品」の第四弾は、坂木司『ホテルジューシー』(角川文庫、2007年)。しっかり者の大学二年生、ヒロちゃんこと柿生浩美。沖縄の格安ホテル「ホテルジューシー」でのアルバイトを通して心を強くし、たくましくなっていくひと夏の物語。ジュ…

『総選挙ホテル』 - 自分で考えて動けるスタッフを増やすために!  

「ホテルを扱った作品」の第三弾は、桂望実『総選挙ホテル』(角川書店、2016)。いまいちヤル気のない従業員たちが働く中堅ホテル。当然、売り上げも停滞。そんなホテルの社長に、現実離れした大学教授が就任することになります。新社長が行ったのは、ホテ…

『ラストチャンス 参謀のホテル』 - 危機に瀕した名門ホテルの再生物語

「ホテルを扱った作品」の第二弾は、江上剛『ラストチャンス 参謀のホテル』(講談社文庫、2020年)。崖っぷちのホテルの再生を描いた作品。崩壊寸前の飲食フランチャイズ企業の再建を描写した『ラストチャンス 再生請負人』の続編。元エリート銀行員で、数…

『銀の虚城』 - 「極秘の特命」に翻弄されたホテルマンの悲劇

旅。それは、非日常の世界に触れることで日常生活にも楽しみを作り出し、メリハリをつけてくれます。そうした人々のエンタテインメントを演出し、サポートしてくれるサービス業のひとつにホテルがあります。今回は、顧客の視点というよりは、サービスを提供…

『キネマの神様』 - 映画館にいるその神様は人間の喜ぶ姿を観ている!

「映画大好き人間を扱った作品」の第三弾は、原田マハ『キネマの神様』(文春文庫、2011年)。老舗の映画雑誌が運営する「キネマの神様」というタイトルのブログを舞台に繰り広げられる、「映画大好き人間」の父と娘、同社のスタッフたちによる心温かる物語…

『クランクイン』 - 1年間でベストセラー小説を映画にせよ! 

「映画大好き人間を扱った作品」の第二弾は、相場英雄『クランクイン』(双葉社、2016年)。ベストセラーとなった作品を映画にする。しかも1年間で! 広告代理店に勤める主人公の「映画大好き人間」。ところが、製作については、まったくの門外漢。それでも…

『シシド 完結編 小説・日活撮影所』 - ジョーが描いた日活黄金時代の全貌

映画。わたしたちにたくさん感動を与えてくれる、エンターテインメントの王様とも言いえる存在です。「あの映画がおもしろかった」「この映画を見てみたい」。多くの人が興味を覚えるのは、「作品としての映画」。ただ、経済小説という視点から見ていくと、…

『ひと喰い介護』 - 法に触れることなく、喰いものにする! 

「老人介護を扱った作品」の第四弾は、安田依央『ひと喰い介護』(集英社、2019年)。法律に触れることなく、介護を喰いものにする悪徳介護施設の実態、その罠にはまった老人たちが転落していく様子が描かれています。 [おもしろさ] 高級ホテル並みのサービ…

『ロスト・ケア』 - 重度の要介護者43人を殺すことで……

「老人介護を扱った作品」の第三弾は、葉真中顕『ロスト・ケア』(光文社、2013年)。重度の要介護者を狙い撃ちする連続殺人を軸にして、介護者と要介護者の関係・心情をホンネで考えた作品です。介護の世界に身を置けば、死が救いになるということが間違い…

『病院でちゃんとやってよ』 - 円滑な介護のための準備をリハビリ病棟で

「老人介護を扱った作品」の第二弾は、小原周子『病院でちゃんとやってよ』(双葉文庫、2020年)。にわかにふりかかった介護問題に動揺する家族たちの素顔を、リハビリを支援する看護師の視点から描いています。現役の看護師が描く「介護小説」であり、おも…