経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

2020-01-01から1年間の記事一覧

『介護退職』 - 介護か、退職か? さて、どうするのか? 

日本社会が抱える大問題のひとつに、人口の老齢化があります。総務省統計局によれば、2019年9月15日現在の総人口に占める65歳以上の高齢者の比率は28.4%。対前年(28.1%)比で0.3ポイント上昇し、過去最高となりました。その数値は、今後もさらに高まるこ…

『虚構の城』 - 大家族主義と専制主義は、同じメタルのオモテとウラ

「出光佐三・出光興産を扱った作品」の第三弾は、高杉良『虚構の城』(講談社文庫、1981年)。先に紹介した二つの作品は、出光興産の「人間尊重の大家族主義」的な経営理念を肯定的に捉えていました。他方、本書は、そこに秘められているネガティブな側面に…

『小説 出光佐三』 - 90歳を超えても経営の第一線で活躍した男の生き様

「出光佐三・出光興産を扱った作品」の第二弾は、木本正次『小説 出光佐三 燃える男の肖像』(復刻ドットコム、2015年)。90歳を超えても「店主」として、社長・会長の上に君臨し、経営の第一線で活躍し続けた出光佐三の生き方、業績、経営理念が小説風では…

『海賊とよばれた男』 - 石油メジャーと張り合った唯一の民族系石油会社

アメリカの原油先物価格(5月物)が暴落し、史上初めて「マイナス価格」を記録したのは、4月20日のこと。それは、新型コロナウイルスを封じる措置に伴うエネルギー需要の低迷など、いくつかの要因が重なったために引き起こされました。直後は、世界経済のさ…

『隠されたパンデミック』 - ウイルスとは? 感染症とは? 対策とは? 

「パンデミックを扱った作品」の第二弾は、岡田晴恵『隠されたパンデミック』(幻冬舎文庫、2009年)です。鳥に由来し、重症の全身性疾患を引き起こす強毒性のH5N1型ウイルスとは異なり、豚に由来し、主に呼吸器感染を引き起こす弱毒性のH1N1型ウイルスによ…

『首都感染』 - 致死率60%以上という強毒性のウイルスが蔓延すると! 

依然として、新型コロナウイルスに悩まされる日が続いています。コロナウイルスは、ヒトを含む哺乳類や鳥類などに広く存在。2002年に中国広東省で発生したSARS、2012年に中東地域を中心に発生したMERSも、コロナウイルスの一種です。新型コロナウイルス感染…

『ラーメン屋の看板娘が経営コンサルタントと手を組んだら』 - ラーメン屋の再生に必要なものは? 

「飲食店を扱った作品」の第三弾は、木村康宏『ラーメン屋の看板娘が経営コンサルタントと手を組んだら』(幻冬舎、2011年)。つぶれかけたラーメン屋が経営のプロのアドバイスによってよみがえる話。ラーメン屋をほかの業態に置き換えてみると、より広く飲…

『握る男』 - 鮨屋の下働きから「外食産業の帝王」に成り上がる男

「飲食店を扱った作品」の第二弾は、原宏一『握る男』(角川文庫、2015年)。悪知恵と謀略により、鮨屋の下働きから始まって「外食産業の帝王」に成り上がっていく男の物語。「握る」という言葉には、「鮨を握る」「キンタマを握る」「人心を掌握する」とい…

『天使はここに』 - 生き生きと仕事に取り組むことのすがすがしさ

食生活には、①飲食店などで食べる「外食」、②家で素材から調理したものを食べる「内食」、③調理・加工済みの食品、惣菜、弁当などを家庭・職場・学校・屋外などに持ち帰って食べる「中食」の三種類があります。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣…

『BUTTER バター』 - 連続不審死事件の「真相」を追いかけるなかで

「記者を扱った作品」の第四弾は、柚木麻子『BUTTER バター』(新潮社、2017年)。2007~09年にかけて起こった首都圏連続不審死事件。愛人業を生業としていた梶井真奈子(1980年生まれ。木嶋佳苗がモデル)が出会い系や婚活サイトを介して知り合った男性たち…

『スクープのたまご』 - 苦悩と悩みと不安のなかでも羽ばたける

「記者を扱った作品」の第三弾は、大崎梢『スクープのたまご』(文藝春秋、2016年)。大手出版社の千石社に入社して2年目の信田日向子。発行部数60万部という日本を代表するトップクラスの週刊誌『週刊千石』編集部に異動となり、記者として活動する彼女の苦…

『クライマーズ・ハイ』- 未曾有の航空機事故を契機に蘇る記者魂

「記者を扱った作品」の第二弾は、横山秀夫『クライマーズ・ハイ』(文春文庫、2006年)。群馬県の架空の地方新聞社「北関東新聞」が舞台。1985年の日航ジャンボ機墜落事故の際、全権デスクに任命された悠木和雅の格闘を描いています。未曾有の大事故の報道…

『ミッドナイト・ジャーナル』 - 新聞記者の誇りとは? 

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けて、「ステイ・ホーム」を実践中です。気になるのは、テレビ、新聞、ネットなどから伝えられる最新情報。それぞれの媒体には、それぞれの固有の良さがあります。なかでも、少し時間をかけてチェックす…

『総理の夫』 - 「日本初の女性総理」を支えたのは夫の存在

「総理大臣を扱った作品」の第四弾は、原田マハ『総理の夫』(実業之日本社、2013年)。日本初の女性総理に就任した42歳の相馬凛子を夫の目線から描いた作品です。度胸と、茶目っ気と素早いレスポンスの三拍子そろった総理大臣を演じられたのは、やはり夫の…

『スケープゴート』 - 「日本初の女性総理」誕生までの道筋

「総理大臣を扱った作品」の第三弾は、幸田真音『スケープゴート』(中央公論新社、2014年)。大学教授から政治家に転身した三崎晧子が「日本初の女性総理」になるまでの過程と、大臣・総理大臣というお仕事の実態がズバリと浮き彫りにされています。2015年…

『民王』 - 大学生の「バカ息子」と入れ替わった総理大臣! 

「総理大臣を扱った作品」の第二弾は、池井戸潤『民王』(ポプラ社、2010年)。心と体が入れ替わった総理大臣と、シュウカツ中である大学生の「バカ息子」。試行錯誤を繰り返しながらも、二人三脚で、いつしか国会と国民に新風を巻き起こすという、奇想天外…

『コラプティオ』 - 総理大臣の資質とは、なにか? 

日本で最も名前が知られ、多忙をきわめる人物と言えば、やはり総理大臣ではないでしょうか。実際のところ、ほぼ連日、発言内容はもちろんのこと、その一挙手一投足に至るまで、メディアや国民の目線にさらされることになります。なにか事を起こそうとすると…

『小説 企業内弁護士』 - 顧問弁護士とはまた異なった役割を果たします! 

「企業のリスク対応力を扱った作品」の第三弾は、中根敏勝『小説 企業内弁護士』(法学書院、2011年)。企業・団体が弁護士と契約し、事あるときに相談に乗ってもらうという「顧問弁護士」とは異なって、ある特定の企業・団体だけのために弁護士業務を行う「…

『スキャンダル除染請負人』 - 危機管理に携わる人には、必読の参考書! 

「企業のリスク対応力を扱った作品」の第二弾は、田中優介、田中辰巳『スキャンダル除染請負人 疑似体験ノベル危機管理』(プレジデント社、2018年)。企業・組織でトラブルや不祥事が起こったとき、当事者の多くは、隠したり、逃げたり、取材を拒否したりし…

『リスクの神様』 - トラブルに巻き込まれた企業を救う「危機管理専門家」

いま新型コロナウィルスの感染によって、日本も世界も大きな試練・リスクに直面しています。行政レベルでは、感染拡大の阻止、検査・医療体制の充実、不況対策、生活に対する悪影響の軽減策などが論議・実施されています。企業レベルでは、業績の低迷に対す…

『コンビニ人間』 - 「人間である以上にコンビニ店員なんです」

「コンビニを扱った作品」の第三弾は、村田沙耶香『コンビニ人間』(文藝春秋、2016年)。コンビニでアルバイトを18年間行っている36歳の未婚女性・古倉恵子が主人公。決して「普通」とは見なされてこなかった彼女も、コンビニの店員として働いているときだ…

『俺のコンビニ』 - 若き店長の情熱がつくりあげたもの

「コンビニを扱った作品」の第二弾は、峰月皓『俺のコンビニ』(メディアワークス文庫、2010年)。郷里でコンビニの立ち上げに奔走する青年の成長物語。コンビニの店長として、何事にもへこたれず、前向きに進んでいく様子がさわやかに描かれています。続編…

『ビル街の裸族』 - コンビニ本部と加盟店のビミョウな関係! 

買い物をするところで、最も身近なお店はどこか? そう聞かれると、多くの場合「コンビニ」という答えが返ってくることでしょう。コンビニが日本に登場したのは、1970年代初めのこと。その後、大きく成長していきます。急成長の過程で構築されたビジネスモデ…

『こちら弁天通りラッキーロード商店街』 - ハチャメチャの思いつきとアイデアで! 

「商店街の活性化を扱った作品」の第三弾は、五十嵐貴久『こちら弁天通りラッキーロード商店街』(光文社、2013年)。カリスマ的な重みをもった人物のアイデアに基づいた活性化物語。借金取りから逃げてお寺に身を隠した主人公の思いつき的なアイデアが地元…

『メガネと放蕩娘』- 起爆剤になった商店主と大学の教員・学生のコラボ! 

「商店街の活性化を扱った作品」の第二弾は、山内マリコ『メガネと放蕩娘』(文藝春秋、2017年)。まじめで堅実な老舗書店の「メガネ」娘と10年ぶりに地元に帰ってきた「放蕩娘」が、地元の大学教員・学生と協力しながら、あの手この手の活性策を打ち出しま…

『おっさんたちの黄昏商店街』 - 高校生の斬新なアイデアからの始動

2020年3月8日(日)、昼食後にテレビをつけると、目に留まったのが日本テレビの番組『鬼の錬金マスター!』。シャッター商店街を舞台に、二人のカリスマ社長が「美容室」と「餃子店」をオープンさせ、1ケ月間の利益を競うというもの。番組がめざしたのは、…

『小説・震災後』 - 掻き立てられた狼狽と不安、そして疑心暗鬼に

「福島第一原発をモデルにした作品」の第四弾は、福井晴敏『小説・震災後』(小学館文庫、2012年)。震災後における日本人の寄る辺のない狼狽感・不安感・疑心暗鬼とはいかなるものか、それらにどのように対処していけばよいのか、次の世代になにを継承する…

『シンドローム』 - 今度のターゲットは超巨大電力会社! 

「福島第一原発をモデルにした作品」の第三弾は、真山仁『シンドローム』(上下巻、講談社、2018年)。シンドロームとは、「同時進行」の意味。サムライ・ファンドの鷲津政彦が主人公を演じる「ハゲタカ」シリーズの5作目。東京電力福島第一原発をモデルにし…

『ザ・原発所長』 - 原発と真摯に向かい合った主人公と黒木亮

「福島第一原発をモデルにした作品」の第二弾は、黒木亮『ザ・原発所長』(上下巻、朝日新聞出版、2015年)。2010年に福島第一原発の所長に就任した吉田昌郎所長と東日本大震災をモデルにした小説。膨大な文献の読み込みと、70人以上におよぶ関係者への取材…

『小説Fukushima50』 - 死の恐怖と対峙しながら任務を遂行した男たち

2011年3月11日。東日本大震災からまもなく9年。それは、未曽有の大地震に加え、想像を絶する大津波、そのうえまかり間違えば、「東日本を全滅させたかもしれない」ほどの衝撃を与えた東京電力福島第一原子力発電所の事故が重なったことで、甚大な被害をもた…